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核の危険に直面して −21世紀への行動計画−
核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム報告書
1999年7月25日 日本国際問題研究所・広島平和研究所
目次 序文
序 文 核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラムは1998年8月に当時の橋本龍太郎総理大臣の提唱により組織された.そのイニシアティブは当時の小渕恵三外務大臣(現総理大臣)によって引き継がれた.共同議長は日本国際問題研究所の松永信雄元駐米大使および元国連事務次長・前広島平和研究所長の明石康氏が務めた.フォーラムは98年8月に東京,12月に広島,99年4月にニューヨークのポカンティコ,同年7月に東京で計4回開催された. この報告書とその提言はこれら会議における議論の結果である.東京フォーラムの参加者は報告書の大筋につき合意するが,報告書すべての論点につき合意したわけではない.参加者は個人資格において出席し,それゆえにこの報告書に記された考え方は個人の属する国家や組織の考えを必ずしも反映したものではない.第1回,2回,3回の会合に参加した銭嘉東大使の有意義な貢献に特別の謝意を表する.その銭大使の後任である胡小笛氏は最終会合に出席し,報告書の重要な点につき異なる意見を表明した.フォーラムの第1回と第2回の会合にも出席したインドのジャスジット・シン氏に対してもその有意義な貢献につきとくに感謝する.フォーラムは日本政府の提唱により始められたが,報告書に盛り込まれた考え方は専門家による,政府から独立した会合であるフォーラムの参加者のものであり,日本政府の政策を必ずしも反映したものではない. フォーラムは関心を有する非政府組織および市民より多くの提案を受けとった.フォーラムはこれらの提案を歓迎し,報告書の作成過程においてそれらを注意深く検討した. フォーラムは日本国際問題研究所,広島平和研究所および日本政府外務省(軍備管理科学審議官組織)からなる事務局に支えられた.事務局はオーストラリア外務貿易省より個人資格において派遣されたローリー・メドカーフ氏による貢献を特記する. *胡小笛氏は報告書のなかでもミサイル輸出管理レジーム,ミサイル防衛,核分裂性物質生産禁止,透明性,朝鮮半島,第2部30および39項,そして主要提言第4項について同意しなかった.
東京フォーラム委員
ニシャット・アフマド 明石 康 マルコス・アザンブージャ セルゲイ・ブラゴボーリン エミリオ・カルデナス テレーズ・デルペッシュ ロルフ・イケウス ロバート・ガルーチ 韓 昇洲 胡 小笛 今井 隆吉 ヨアヒム・クラウゼ マイケル・クレポン ピエール・ルルーシュ パトリシア・ルイス マーガレット・メイソン 松永 信雄 ジョセフ・ナイ ロバート・オニール アブドル・モネム・サイード ジョン・シンプソン ゲンナジー・ウドヴェンコ ザカリア・ハジ・アフマド
第1部 新たなる核の危険
1 冷戦の終結後10年が経ち,21世紀を目前にして,国際的な安全保障の枠組みが崩れる兆候がみえる.大国間の関係が悪化している.国連は,政治的,組織的,財政的な危機に直面している.核兵器およびその他の大量破壊兵器の拡散を阻止する国際的な体制は四面楚歌の状況にある.インド・パキスタンによる核実験は,核兵器の有用性が低下しているという見方が必ずしもすべての国により共有されていないことを示した.長年にわたる地道な努力も,核拡散の意図をもった国々の強固な大量破壊兵器開発計画を全廃させるに至っていない.国際的な軍縮目標は逆行し,米ロ核軍縮プロセスは行きづまっている.とりわけアジアの情勢は流動的で,今後数年間,核軍縮・不拡散が逆行する前兆もみえる.大量破壊兵器で武装したテログループが出現する可能性もあり,政治的暴力がしだいに活発化することが懸念される.世界各地を襲った経済危機は,市場原理では説明がつかない不安定性と予見不可能性を生み出している. 2 世界秩序の主な要因である大国間の関係は,核不拡散および核軍縮の将来にとりきわめて重要である.短期間の和解の後に米ロ間の不均衡が拡大し,緊張が高まった.米国はもはやロシアと同等に対峙する国ではなく,唯一の軍事超大国と考えられている.ロシアは自らの地位を憂慮し,とくに「戦術」用途のための核兵器を再評価しつつある.両国関係は,北大西洋条約機構(NATO)の拡大,国連イラク大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM),ミサイル防衛,コソボ問題で悪化した.自国の考えをたびたび無視する米国のイニシアティブに対するロシアの焦りが軍縮に悪影響を及ぼしているのは明らかである.ロシアの議会下院による第2次戦略兵器削減条約(START II)の批准問題は,繰り返し米ロ間の「人質」として悪用されている.米中関係も紛糾している.人権問題,ミサイル防衛,台湾問題,核不拡散問題等の基本的事項に今や見解の相違があるばかりか,両国のアジアにおける役割をめぐる見解にも潜在的な対立が存在している.両国の対立は,来世紀にはいっそう深刻となろう.欧州はいまだ世界政治において影響力を発揮し得ていない.欧州連合(EU)は統合と拡大を目指しているが,共通の外交・防衛政策の実施が遅れていることもあり,現時点では国際舞台で積極的に行動できていない.その結果,旧ソ連から継承された大量破壊兵器のような重要問題でさえ,欧州は限られた役割しか果たしていない.とくに,米国の協調的脅威削減計画と比較すると,顕著である.最後に,より大きな役割を担おうとする国が増え,大国の役割は変わりつつある. 3 核不拡散・核軍縮の促進のためには強力で効果的な国連が必要である.しかし,国連は漂流しており,財政的にも不十分な状況にある.国際関係における国連の役割は一定しておらず,時には重要な役務を果たすものの,時には完全に無視されることもある.国連は国家間の力関係を反映し,主要国間の関係悪化に影響される.国際法を無視する非国家主体が重要性を増し,国連組織は,多数の死傷者をともなう新たな暴力行為やグローバリゼーションがもたらす複雑な問題に対処するにはあまりにも弱体である.国連は,創設以来50年間の劇的な変化に対応できなかったため,有効性のみならず,正統性についても疑問が投げかけられている.国連常設軍や新常任理事国に関する見解の相違が,国連の抱える問題を浮き彫りにしている.しかし,国連は,国際的な安全保障上の協力関係を形成するうえで重要な機構であり,その運用の強化が必要である.来世紀における国際的な安全保障の問題に効果的に対応するためには,安保理改革,新たな規範原則,運用措置,財政面のルールの遵守および新たな財源が必要である. 4 最近の科学技術の発展により,生物・化学兵器の入手はますます容易になっている.また,生物科学における革新により,防ぎようがない危険な新世代生物兵器の生産が可能となっている.このなかには合法的な企業による研究との峻別が難しいゆえに拡散防止が困難になっているものもある.核兵器やその他の大量破壊兵器の拡散が進むにつれ,拡散国は複雑な秘匿手法や新たな供給源を活用している.ミサイルの射程距離の拡大,発射準備体制の強化により,ミサイル運搬システムへの関心がますます高まっている.新たに核武装した国の核戦略は必ずしも明確ではなく,生物兵器を入手した国の戦略はさらに不明瞭である.その結果,新たな大量破壊兵器による軍備に対して深刻な問題が提起されている.このような兵器は,最終手段としての兵器として考えられているのであろうか.それとも,より高度な通常兵器を保有している国に対する決定的な兵器としてだろうか.あるいは究極的に独裁政権を守る手段,もしくは地域支配の手段として考えられているのだろうか. 5 冷戦中,超大国は核戦争の回避に強い関心をもち,敵対行為を慎み,対話と信頼醸成措置を通じてある程度の信頼関係を築いてきた.他方,新たに核を保有した国および近隣諸国の間では,このような措置はまったくとられていない.今,世界は新しい危険な行動様式について考えなければならない.大国間の全面戦争のリスクは減少したが,大量破壊兵器による地域紛争のリスクは増大している.このような警告はカシミールや湾岸地域および朝鮮半島の問題に対し発せられてきた.核不拡散や核軍縮に関する条約を極秘裏の兵器開発計画を隠すための煙幕として利用した国があった.不安定な地域にあるイラクと北朝鮮における大量破壊兵器開発への懸念は協調によっても,あるいは対決を通じても,払拭することがきわめて困難であることが判明した.いずれの場合も,1998年と99年は,再評価と潜在的な危機の年であった. 6 インドとパキスタンによる1998年5月の核実験は,世界の核不拡散・軍縮の様相を大きく変えた.両国の核実験は,冷戦終結にともない核兵器は過去の遺物となったとの大きな期待と希望に反するものであった.逆に,両国の核実験は,核兵器が将来の戦略状況で重要性を高めうることを示した.印パ両国は,核兵器は冷戦という唯一の歴史的状況においてのみ存在したものであるとの考え方に,疑問を投げかけた.両国の核兵器国としての地位は認知されていないが,両国は核能力を公にし,68年の核不拡散条約(NPT)体制に根本的な問題を提起した.もはや,NPTの普遍性を達成することはきわめて困難である.核兵器国は5カ国のみであるとの前提でNPTに参加している多数の国は,両国の核実験を自国の自制政策への挑戦であるとして憤りを抱いている.今回の核実験とミサイル発射実験は,47年以来の印パ紛争,中印紛争など四つの紛争を経験した南アジアにおける核の危険性を大幅に増大させた.両国の相互破壊能力もこのような危機を防止するものではない.第2次世界大戦以来,6回にわたる武力衝突が発生した中東では,今後の紛争で大量破壊兵器が使われる可能性が現実味を帯びた.73年のアラブ・イスラエル紛争では,イスラエルが核兵器の使用を検討したとの疑念がもたれ,米国でさえも核戦争の警告を発した.80年から88年のイラン・イラク紛争では化学兵器が使用され,91年の湾岸戦争では生物・化学兵器の使用の恐れがあった. 7 米ロ間の軍縮は行きづまり,これが世界の核軍縮・不拡散に大きな影響を及ぼしている.ロシアの議会下院は当面START IIの批准に苦慮するであろう.STARTプロセスを促進するために新たな努力が払われなければ,第3次戦略兵器削減条約(START III)は実現しない条約のままで終わるかもしれない.もし2大核兵器国が,核兵器の戦略的削減に向けての協力姿勢を放棄すれば,それは大きな後退であろう.1999年6月20日の米ロ共同宣言が,STARTプロセスを復活させると期待するのは時期尚早である. 8 戦術核兵器への懸念も高まっている.世界に貯蔵されている核弾頭の半数以上が戦術核であるにもかかわらず,それを規制する条約はない.両国は,すでに意味を失った大規模攻撃計画に基づいた大量核兵器の高度警戒体制を堅持している.ロシアの早期警戒システムおよび指揮命令系統は弱体化し,政治的リーダーシップが不安定な時期にあっては,このような計画はとくに危険である. 9 核分裂性物質の管理問題も危機的状況にある.核分裂性物質は1940年代以降,大量に生産され,備蓄されている.今日,数千発もの解体核弾頭からプルトニウムと高濃縮ウランが取り出されている.ロシアにおける核分裂性物質管理強化のための国際的な支援にもかかわらず,管理下に置かれていない多くの核分裂性物質が外国へ拡散することが懸念されている.4核兵器国(米,ロ,仏,英)は,兵器用核分裂性物質製造の停止を発表した.中国,インド,イスラエル,パキスタンが,生産停止を宣言し,これを守ることが期待される. 10 米中関係は急速に悪化し,非常に不安定になっているが,これが核軍縮にも悪影響を与えている.米国は,中国とパキスタンとの核・ミサイル協力,および中国による核兵器の配備に懸念を有している.中国はすでに,核兵器の無条件先制不使用,非核兵器国に対し核兵器の不使用および威嚇を行わないこと,国外に核兵器を配備しないことなどを約束している.しかし,中国はほとんど透明性措置をとっていない.透明性をさらに高めることが地域的懸念を払拭し,国際的な核軍縮努力を支援することになる.他方で中国は,米国の核抑止ドクトリンおよび弾道ミサイル防衛の配備に懸念を表明している.米国は自国のドクトリン,核配備,核分裂性物質や技術的進歩を公表しているが,米国が貯蔵核物質についてさらに情報公開を行うことは,核軍縮の進展に前向きなインパクトを与えることになろう. 11 中国の国力増強とロシアのさらなる弱体化に特徴づけられる中ロ関係は,今後の国際システムを構築する際に重要である.中国はロシアの新たなミサイル開発や核兵器の使用を容易にする運用ドクトリンの変更に懸念を抱き始めるであろう.中国は戦略兵器削減条約による制限を課されておらず,一方でロシアは地上配備の多弾頭ミサイル削減につき合意しており,その核戦力は大きく後退している.このような複雑な状況下でロシアは懸念を増大させていくであろう. 12 ある期間,核,化学,生物兵器を使ったテロ行為はありうると考えられた時期もあったが,真面目な政策担当者は従来よりその他の脅威の方が緊急であると考えてきた.1990年代初頭以来,この考えは変わりつつある.大量破壊兵器によるテロの可能性は,現在も比較的低いが,テロリスト・グループの能力向上により,大量破壊兵器を開発し使用するための技術的課題が克服され,また,麻薬の不法取引による莫大な資金がゆえに,その可能性は高まっている.冷戦時代,兵器級核分裂性物質に対する国内管理は厳重であったが,現在はしだいに国家以外の主体がこれを入手することが可能になりつつある.大量破壊兵器によるテロは,未然に防止し違反者を特定することが非常に難しく,とくに警戒を必要とする.このようなテロの効果は甚大であり,今後の数十年間における安全保障へのもっとも深刻な挑戦といわなければならない.ここ数年,政治的暴力と多くの死傷者を生ぜしめる傾向が増加しているようである.とくに民族紛争において民間人の殺傷やその排除が戦争目的である場合に,化学兵器がすでに使用されたことがあり,これらが危険な前例となっている. 13 大量破壊兵器の不拡散体制の維持・強化は,世界の平和と安全保障にとり必要不可欠である.NPT,化学兵器禁止条約(CWC),生物兵器禁止条約(BWC)の加盟国は増加しているにもかかわらず,主要国はこれらに入っていない.CWCの国内実施に際して関係国政府がとる決定はその検証制度を弱体化しており,BWC検証議定書の採択への道のりも遠い.条約不履行も増加しつつあるが,核不拡散関係の規範,条約,機関が多くあるにもかかわらず,条約の遵守を評価し実施するための多数国間で合意されたプロセスは存在しない.軍縮の進捗,平和的な協力関係へのコミットメント,中東非大量破壊兵器・ミサイル地帯の創設という特定の地域的課題などの政治問題についても,関係国の意見は分かれている. 14 想定されるミサイル防衛の配備は状況を複雑化し,大きな議論を引き起こしている.拡散はミサイル防衛の必要性を是認しそれを助長している.すなわち,イラン,イスラエル,北朝鮮,インド,パキスタンの中距離ミサイル・システムの脅威をめぐる劇的変化は,ミサイル防衛に関する関心を新たに高めた.しかしその一方で,ミサイル防衛は,5核兵器国の一部の国を含めその防衛的配備の相殺を試みる国もあるため,とりわけ大量破壊兵器拡散の脅威の増大と多様化につながるとの議論がある.ミサイル防衛は,核の危険を減少せしめ,結果的に国際的な安全保障が不安定化することを回避するため,これらのあらゆる影響に配慮する必要がある.高度ミサイル防衛を規制する1997年の弾道ミサイル制限(ABM)条約議定書は,ABM条約に根本的な影響を与えるものではなく,相互抑止モデルの基盤を崩すものでもない.今後のABM条約に関する米ロ協議もこれらの基準から外れるものではない. 15 時代遅れの核ドクトリンや,人為的に期限を付した核軍縮ではなく,どのような方法が現在の安全保障上の懸念にもっともよく応えるかについて現実的な対話を行うべきである.国際社会においては,この難しい時代の核の危険を減らすための新たなアプローチが求められている.不拡散体制が21世紀まで有効であるためには,核不拡散の規範が強化されなければならない.また,地域的なもののみならずグローバルな安全保障に注視する必要がある.1991年の湾岸戦争は地域紛争がいかにグローバルな影響を及ぼしうるかを示した.核不拡散・核軍縮は,核兵器国の問題でも,紛争地域の国々の問題でもない.NPTは,すべての締約国による約束に基づいている.核兵器国はNPT第1条,第4条,第6条の義務を遵守し,核軍縮を進めなければならない.非核兵器国は条約の不履行というもっとも難しい問題に際して効果的な行動を強く支援する必要がある.両陣営の協調が,核の危険を減じるためのパートナーシップを一新させる唯一の方法である.米ロ間における核兵器削減に新たなアプローチがなされ,また核軍備と核分裂性物質の貯蔵を制限する動きがあれば,多数国間核軍縮交渉を進捗させるであろう.中東および北東アジアの地域安全保障上の脅威にも十分な注意を要するが,インド,パキスタンおよび中国における安全保障問題についても同様である.これらの3地域は,潜在的に大量破壊兵器の使用の可能性を排除し得ない潜在的な発火点地域である. 16 このような状況下で,安定と核兵器の安全性を維持することは難しい.そのためには将来についてのビジョンと複雑な問題を解決する手順が必要である.また,国際的にも地域的にも,核兵器の拡散を阻止する新たなイニシアティブと主要国間の新たな戦略的協力関係が必要である.世界は冷戦終結以来,予測不可能な難問と騒乱の10年を目のあたりにしてきた.新しい世紀が始まると同時に,世界がさらに混乱・紛糾し,すべての人類の安全が脅かされる危険が大きいが,われわれはこの困難を問題解決の糸口にしなければならない.このため,問題を理解し,安定を維持し,大量破壊兵器を削減し,透明性を高める新たな手段を講じる必要がある. 17 1996年に核兵器廃絶に関するキャンベラ委員会が重要な報告書を発表して以来,数多くの変化が起こった.さまざまな分野で問題の兆候がみられる.東京フォーラムの報告書および提言は,最近の情勢がきわめて深刻であることを明らかにし,地域および国際安全保障の後退を阻止するため緊急の措置を提示することを目的としている.われわれは,国際社会に対して,拡散と核の危険の増大による挑戦に立ち向かうよう要請する.本報告書は,これらの挑戦への対処の仕方について,相互に関係する三つの方法で明記している.すなわち,主要国間と地域レベルで核の危険を減じるための戦略的関係の修復,核兵器拡散の阻止と巻き返し,そして核軍縮の構築と新たなイニシアティブである.
第2部 核の危険を低減するための
1 既存の核兵器国あるいは今後核武装を行う可能性のある国々の不信感と対抗関係により,核不拡散・核軍縮の先行きは明るくない.これは,米ロ中の主要国間の関係および核対立が十分ありうる紛争地域,すなわち南アジア,中東,北東アジアにおいて対処すべき問題である.大国間の関係を修復し,相互の戦略的な不信感を和らげることは,3地域において核不拡散・核軍縮を進めるための環境整備に,おおいに役立とう.また,大国間の関係にかかわらず,これらの地域内の各国が,核不拡散・核軍縮の進展に向けて重要な政策をとることは可能であるし,また,そうすべきである. 大国間関係の修復 2 核不拡散と核軍縮の成功のためには,米ロ中のすべての2国間協力が必要である.近年,米ロ関係および米中関係は著しく悪化している.これらが改善されなければ,また,改善されるまで核の危険は増大する. 米ロ関係の修復 3 1996年にキャンベラ委員会報告書が発表されて以来,米ロ関係は,経済的にも軍事的にも不均衡が拡大し,両国の国内政治における対立と党利党略が増大し,両国は協力関係からおのおのが独自の行動をとる方向へと後退した.その結果,不拡散および新しい核軍縮に向けて共同のイニシアティブをとる努力がまったく行われなくなった.今や冷戦時代の米ソ関係の特徴であった,軍備管理,軍縮,ABM条約などの合意事項を含む予測不可能性を回避しようとの共通の願望が欠如した危険な状態にある. 4 冷戦状況の衰退とともに,多くの努力によって築かれた米ロ間のパートナーシップは,戦略兵器削減諸条約や湾岸戦争での協力関係を生み出すまでに至ったが,今や崩壊しつつある.両国における政治的分裂,外交政策上の大きな相違,また共通の基盤を再構築するのに必要な協調的リーダーシップの欠如などがその原因である.両国関係の現状を理解するためには,1999年のユーゴスラビア問題を含む最近の緊張関係が生ずる以前に達成された成果を評価するのが有益である.冷戦終結後5年間の幸せな時期は終わった.前向きな傾向は部分的に続いてはいるが,難しい局面が増加している. 5 冷戦終結前後の数年間には,軍備管理が進捗し,戦略的安定が向上するなど,大きな進展がみられた.戦略核が大幅に削減され,ABM条約に違反しない努力が追求された.START IIで,米ロは配備された戦略核をそれぞれ3000発から3500発に削減することとした.両国はロシアがSTART IIを批准しだい,戦略核をそれぞれ2000発から2500発に削減するよう,さらなる戦略兵器削減に向けた協議(START III交渉)を始めることで合意した. 6 この期間の米ロ間のもっとも重要な成果は,両国の行動がかなり先まで予測できたことにある.国際関係の新たな構図を理解し,机上の問題と真の問題を区別し,グローバルな脅威と地域的な脅威の変質につき共通の理解を得るうえで進展がみられた.両国は,民族紛争等の地域紛争,国際テロ,通常兵器の違法取引,グローバルな経済危機への懸念を共有しているようであった.この共通認識は,1998年9月にエリツィン大統領とクリントン大統領が署名した「21世紀に向けての安全保障の共通課題に関する共同声明」に反映された.米ロは繰り返し,両国間の対話と妥協が国際的な緊張緩和に貢献してきたことを顕示してきた.その例として,イラクとある時点での旧ユーゴスラビア問題があげられる.しかし,このパターンは大きく後退した.99年のユーゴスラビアでのNATOの行動は,米ロ間の溝を広げた. 7 この後退は,米ロが政策上の相違に寛容であった1990年代初頭と際立った対照をなしている.この時期,見解の相違は対立には至らず,国益に基づいた相違点は当然のものと受けとめられ,米ロのパートナーシップはこの寛容性により保たれた.しかし現在,とくに国際問題に対する単独国家や多国による対応をめぐって米ロ間の相違が拡大している.ロシアは,国連の旗の下での多国間行動が不可欠であると主張し,米国の紛争への対応が,あまりに一方的行動や軍事的措置に傾斜しすぎているとしている.米国と西欧は,多国間の努力が成功することを望む一方で,国連安保理におけるロシアの拒否権行使は,人道への犯罪や大量破壊兵器関連の条約違反に対抗する多国間行動を禁じかねない,として認めたくない立場であった. 8 米ロ関係が紛糾すれば,核の危険を削減する努力は大きく損なわれる.配備されているか否かを問わず,冷戦時代の核軍備を検証可能で,確実かつ不可逆的な方法で大幅に削減し,廃絶するためには,両大国間の協力が必要である.ソ連時代の保有核兵器を安全に廃棄するためにも米ロによる協調的な取り組みが必要である.ロシアの困難な経済状況を考えると,ロシアがこの複雑な問題に十分な資金や資源をつぎ込む見込みはない.核拡散の懸念のある国家や非国家主体,あるいはテロ集団の手に核兵器の材料が渡る可能性を極小化するためには,外国からの援助がきわめて重要である.拡散の懸念や影響がもっとも大きい地域の,もっとも難しい地域安全保障問題を解決するためにはロシアの協力も必要である. 9 建設的な米ロ関係を回復するため,両国の指導者は緊急に行動をとる必要がある.そうしなければ核不拡散・核軍縮努力が大きく後退する危険が大きく,少なくとも,START IIの批准はさらに遅れるであろうし,それに続く新たな2国間戦略兵器削減条約の見通しはさらに遠のくであろう.またロシアは,寿命の過ぎた戦略核を維持するべく懸命に努力するであろうし,その戦力態勢や核ドクトリンにおいて戦術核兵器をより重視していくだろう.また,ロシアは通常兵力の増強を試みるだろう.ベラルーシやおそらくウクライナでも,国内あるいはロシアの政治情勢しだいで,その非核の立場を再検討すべしとの強い圧力が生じるであろう.新たな地政学的環境のなかで,ロシアは,核拡散の懸念のある国々との間で軍事・技術協力を拡大し,戦略的パートナーと認めるかもしれない. 10 核不拡散と軍縮に深い痛手を与えるような,グローバルな反動も生じるだろう.すべての核武装国の軍縮を先導するためには,米ロの核削減を進展させる必要がある.しかし,核の危険を減じるための米ロの協調的関係を再確認することは難しいであろう.ユーゴスラビアへのNATOの行動に加え,想定される米国本国のミサイル防衛およびNATOの拡大がとりわけ争点となっている.ロシア経済の低迷や,安定した民主的な国家建設が難しいことで,ロシア国民が憤慨しているのは理解しうる.ロシア国内でナショナリズムや戦略的競争といったことが再び取りざたされている.地域的な拡散問題,とりわけイラク,イラン,インドの核拡散につながりかねない輸出の規制につき,米ロ間の亀裂は広がっている.大量破壊兵器計画に使用される物質や技術の輸出規制が急務であり,米ロの調整が必要である. 11 STARTプロセスは,新しい核の危険の増大に比べ大幅に遅れている.ロシアによるSTART IIの批准の遅れは,条約交渉に費やした時間よりも長くなっている.遅ればせながら批准されたとしても,立法府はさまざまな条件を付し,条約の実施をさらに遅らせたり,複雑にするだろう.冷戦時の軍備削減に重要な役割を果たした米ロ戦略核兵器削減プロセスは依然,有効だが,現在や今後の課題を扱うにはまったく不十分である. 12 兵器削減プロセスの相違は,米ロ間の大きな政治的相違を反映している.政治問題の解決という重荷を軍備管理に背負わせるのは誤りである.真実はその逆であり,核の危険を減じる努力を再開させるには,地域的拡散と安全保障に関する問題を含め,主要な政治的相違を修復する必要がある.しかし,軍備管理の取り決めは,米ロ指導者による協調的努力を促進・強化し,幅広い協力関係の建て直しにつながるであろう. 13 米ロ協力の建て直しがかなり難しいため,2000年の両国の国政選挙で新しい指導者が就任するまで,こうした努力を延期すべきだという見方もあろう.しかし,核の危険は選挙の周期と重なるものではなく,拡大し続ける.東京フォーラムは,米ロ関係を修復するための措置をただちにとるよう,米ロの政治指導者に強く要請する.さもなくば,地域的およびグローバルな安全保障を脅かしている傾向がさらに強まることになるであろう. 14 東京フォーラムは,クリントン,エリツィン両大統領がABM条約の修正に関する協議を行い,同時にSTART IIの批准促進に努めることで合意した,1999年6月20日のケルンでの米ロ共同宣言と,米ロ首脳会談における進展を歓迎する.共同宣言は,START III交渉の開始が必ずしもSTART IIの批准の後ではないことにも言及している.しかし,6月20日の会合が,持続的で効率的な2国間軍備削減プロセスの復活につながると判断するのは尚早である.前途には数多くの障害があり,ケルンでの合意に立脚し,引き続き両国に働きかけていかなければならない. 15 米ロ関係の冷却化は核の危険の削減に深刻な影響を与えるため,両国の指導者は関係改善に高い優先順位を与える必要がある.こうした努力を促すため,東京フォーラムは核問題に係る対話がいかに両国関係を改善するかについてのアイデアを提供する.これらは,本報告書の核軍縮を扱った部分で示されている. 米国・中国関係の修復 16 核の危険を減じるため,米中間でも新しいパートナーシップが結ばれる必要がある.近年の米中首脳等の相互訪問は,有意義ではあったが,複雑な関係にある両国の相違を調整するには至らなかった.両国の相違がいかなるものであれ,核拡散の懸念を減じるための協力関係が必要である.両国の対話が強化されれば,核兵器や政策意図の透明性を高めることになり,包括的核実験禁止条約(CTBT),輸出規制などさまざまな核不拡散・核軍縮措置への両国の参加をいっそう強固なものにしうる.また,ミサイル防衛への中国の懸念に応えることで,地域的およびグローバルな安全保障の複雑化を防ぐものと考えられる. 17 中国は冷戦において中心的な役割を果たしたわけではないが,来世紀には,より重要な大国となる可能性が大きい.中国がどのような形で強大化する力を行使するかは,東アジアにおける米国のプレゼンスに直接的影響を与える.他方,東アジア・西太平洋における米国の役割は,中国の安全保障政策を決定する要因となる.とくに,米国がこの地域において安全保障関係を築く際,中国の安全保障上の関心を踏まえて対応することが重要である.両国の政策が核の危険の削減努力に影響する. 18 東アジアにおける戦域ミサイル防衛(TMD)導入問題は,米中間の主要争点の一つである.中国は,東アジアにおけるTMDは不安定をもたらすと主張する.同様に,核兵器の将来に関するどの分析でも触れられてこなかったが,中国が新しく二つのタイプの固形燃料式大陸間弾道ミサイル―おそらく多弾頭―を開発しているとされており,国際社会の大きな懸念材料となっている. 19 米中は,今後協調的かつ建設的な形で戦略問題および核拡散問題に対応するよう努力すべきである.米国のメディアや政界の一部にみられる過剰な警鐘的アプローチは,この意味で有益でない.中国が軍事力を増強しているとみられていることが,近隣諸国のみならず,それ以外の地域においても不安感を生み出している.核政策を説明し,また,不拡散政策を明確にすれば,中国は他の核兵器国同様,国際社会に改めて安心感を与えるであろう. 20 NPTの下,すべての核兵器国は核兵器を削減し,最終的に廃絶するための具体的措置をとる責任を有する.1990年代初めから米ロは核を大幅に削減する努力をしてきており,英仏も核を削減してきたが,中国はいまだ同様の措置をとるに至っていない.東京フォーラムは,米・ロ・仏・英に対し,核軍備削減を継続するよう求め,また,中国に対し,その他の核兵器国と同様,交渉その他により核を削減するための具体的措置をとるよう要請する.また,5核兵器国は,核兵器分野における信頼醸成および透明性を高めることが可能である.そうすることにより,全核兵器国は核軍備が増強されないことを確認することができるであろう. ロシアと中国の間の信頼強化 21 中ロ間の良好な関係は両国にとってのみならず,世界にとっても重要である.両国関係は,この数年改善し,1999年4月の国境線確定に至った.来るべき将来にわたり友好関係を保つことが重要である. 22 両国は新しい時代に入ろうとしているものの,将来の中ロ関係を予測することは難しい.中国の国力の増強とロシアの弱体化が進み,また,両国と米国との摩擦が増大しており,新たな懸念要因となっている.両国間の非対称性は拡大するかもしれない.ソ連の崩壊にともない,ロシアはウラル山脈の東側のアジア地域に人口の少ない未開発で広大な領土を保持することになったが,これが中ロ関係に直接影響を及ぼす.双方の軍備が増強されれば,2国間関係に悪影響を与えるであろう.ロシアと中国の核は,将来,均衡に近づく可能性があり,両国が核抑制政策をとることが,重要な信頼醸成措置となるであろう. 地域拡散の阻止と巻き返し 23 1998年5月のインド,パキスタン両国による核実験は,核の拡散が新しい危険な段階に達したとの現実に世界を引き戻した.いまだに対立関係を解消していない両国は,それぞれ核への野望を明らかにしていた.両国の核実験は,国際的な不拡散規範が地域の安全保障の要請に屈したことを意味し,地域紛争が現実の核戦争に発展する懸念を増大させた. 24 こうした懸念が増大しているのは南アジア地域のみではない.中東や北東アジアにおいても核拡散を阻止し,状況を巻き返す措置を緊急に講じる必要がある.これら三つの地域すべてにおいて,国家間の対抗意識が核兵器への野望と結びつき,長期的かつ破局的な核の危険性を新たに生ぜしめている.近年,地域的な核拡散を阻止し,巻き返す動きがみられるが,これらの機会を逃してはならない.核開発計画を中止したブラジルとアルゼンチンの事例は,アルゼンチン・ブラジル核物質計量管理機関(ABAAC)の創設にみられる地域的かつ2国間の信頼醸成や協力の枠組みを通じ,地域の核への野心を防止しうることを示した. 25 1995年のNPTの延長・再検討会議は,さらなる核軍縮への道を開き,同条約を可能なかぎり普遍化するものと思われた.核兵器国が期限付き核廃絶にコミットする準備ができていなかったことは別にして,再検討会議の争点は,中東,南アジア,北東アジア等地域の安全保障問題に関するものがほとんどであった.これらの問題は深刻に受けとめられなければならない.より広い視野で安全保障を考慮することなく,たんに紛争当事国に忠告したり,核関連活動の抑制を要求するだけでは解決できない問題である. 26 核の危険がどのようなものか,またその原因が何かは,3地域ごとに異なる.共通点は,核軍縮の進展を妨げる可能性があること,また,世界が核の拡散を当然とみなす結果を招く可能性があることである.核拡散の事例はおのおの異なっているので,国際社会は,それぞれの状況に応じて対応しなければならない. 南アジア 27 南アジアにおける核実験と核兵器の拡散は,5核兵器国と同等の扱いを望むインドの野心,国内政治要因,対中国認識を含む安全保障上の懸念によって生じてきた.インドは核兵器の保有を大国とみなされる資格の一つと考えており,自国の地位を1968年のNPTに規定された核兵器国と非核兵器国の区分の外側にあるものと考えている. 28 過去数十年間,インドは全面的核軍縮の提唱国であった.今日,インドの政治的および知的エリートたちは,全面的核軍縮への要請が拒否されたことこそが,インドが核兵器を求めた要因であるという.しかしながら,この議論が説得力をもたないのは,インドが核保有に転じたのが,米国とロシアがそれぞれの核戦力の大幅削減を実施していた時期であったからである.インドの核実験のタイミングは,他の核の危険性を大幅に高め,核軍縮の達成をより困難なものにするものである. 29 インドの核計画のもう一つの動機は,中国との関係である.インドには,中国の長距離弾道ミサイルとチベットに配備されているといわれる短距離ミサイルに懸念を抱いている人々がいる.インドが中国領土の大半に到達する長距離ミサイルを開発している今日,中国が受けとめるインドの脅威も増大するかもしれず,北京政府の核政策を強化させる圧力を増大させている. 30 南アジアにおける核軍備競争の出現は,インドや中国のほか,パキスタンも関与しているその複雑さのため,きわめて危険である.核能力を別にすれば,パキスタンはインドにとり,重大な軍事的脅威ではない.印パの軍備競争の原因は,1947年のインド亜大陸の分割とそれ以降の数多くの紛争と危機にある.パキスタンはインドに対し通常兵力では対抗できないため,核兵器によってインドに拮抗しようとしている.だがこれにより,カシミールが平和に近づいたわけではない. 31 インドの核能力が増大するにつれ,中国がこれを静観するという保証はない.その結果として生ずる摩擦は,双方の安全保障を弱体化させ,南アジアをさらに危険な状態にするだろう.インドとパキスタンの政治的危機は,繰り返されており,核兵器能力が明らかになったことにともない,さらに加熱している.インド,パキスタン両国の戦略家の多くは,核兵器能力を明らかにすることで,戦略的安定が向上すると信じているが,その過程はさほど単純ではない.すなわち,両国は,いまだリスク削減・安定化のために特別な対策を講じてはいない.インド,パキスタン両国は,即時配備可能な弾道ミサイルの発射能力を示した.その結果,核搭載可能なミサイルの発射命令から実射に至るまでの時間は極端に縮まっている.地理的要因も危機の際の不安定さを増幅している.すなわちパキスタンは戦略的にみて,地形に奥行きがないために,核兵器を高度警戒体制下に維持することを強いられていると感じるかもしれない.極端に短い距離と飛行時間を考えれば,危機の際の意思決定は数分間で行う必要があり,破局をもたらす判断ミスの可能性も高くなる.指令に基づかず,核兵器搭載ミサイルが発射されるリスクもある. 32 安定化措置を欠くなかで,もう一つの危機がすでに南アジアで発生した.核能力を公にしたことでインド,パキスタン両国に安定と安全保障がもたらされてはいない.もし,1999年のカシミール危機の影響を払拭できなければ,さらに危険な事態を招くであろう.核実験と核搭載可能ミサイルの飛行実験を実施するという両国の決定は,連鎖反応を招こう.とくに安全保障上の不確実性が別の地域で露見すれば,より多くの国が非核兵器国としての立場を見直す恐れがあり,そうなれば核廃絶を究極の目標とした,核不拡散から核軍縮へのつながりは弱まるであろう. 33 東京フォーラムは,インド,パキスタン両国に対し,国連安保理決議1172号と1998年6月のG8外相会合コミュニケに示された「要求項目」を改めて確認する.フォーラムは,国際社会が,インド,パキスタン両国に対して,引き続き国連安保理決議1172号のすべての要求を実施するよう求めることを要請する.その要請には,両国が遅滞なく無条件にCTBTに加入し,核兵器および弾道ミサイル開発計画を即時中止し,核の実戦配備を控え,核兵器用分裂性物質の製造を中止し,大量破壊兵器またはそれらを運搬可能なミサイルの開発に貢献しうる装備,物質および技術の輸出を控えることが含まれる.東京フォーラムはインド,パキスタン両国が核実験停止のモラトリアムを維持することを求める. 34 東京フォーラムは,インド,パキスタン両国に国際規範を受け入れるよう引き続き国際的な圧力をかけなければならない,と考える.究極の目標は,インド,パキスタン両国を説得し,核兵器を放棄させ,NPTに非核兵器国として加入させることにある.後者の目標は,インド亜大陸での和解が成立し,米ロ間の核兵器削減プロセスが継続され,再活性化され,そして中・仏・英を含めた適切な場での核軍縮プロセスが拡大されるといった文脈でのみ達成し得よう. 35 東京フォーラムは,インド,パキスタン両国が,兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)交渉が終結するまで兵器用核分裂性物質生産中止を発表し,条約交渉に建設的に貢献するよう求める.この文脈で,中国が国際社会の安定化勢力となることを望んでいることも考慮すると,中国が兵器用核分裂性物質生産中止を宣言すればインド,パキスタンがこれにならうことになろう. 36 東京フォーラムは,インド,パキスタン両国が核実験の結果,NPTの下で核兵器国としての法的地位はもとより,特別な地位を獲得すべきではなく,それ以外の新たな地位も与えられるべきでないと考える.両国の行為が,国際の平和と安全の基本である国際的な核不拡散の規範に違反するかぎり,両国が国連安保理に常任の議席を有することはきわめて困難である.核戦力の保持と,国連安保理常任理事国を含む大国の威信と影響力との相互関係は断ち切られる必要がある.5核兵器国のうち4カ国は,核兵器を取得するはるか以前に常任理事国の資格を獲得している.英仏は,国際問題に幅広く関わってきたことによって現在の地位を有し,核戦力の一方的削減によってもその地位を失ってはいない.また,ドイツと日本は経済発展を通じてその地位を得たのである. 37 東京フォーラムは,インド,パキスタン両国に対して,核の危険を低減させるための具体的かつ検証可能な措置をとるよう求める.1999年2月のラホール宣言には,この方向への建設的な実行計画が含まれている.しかし,インドにおける政治的混乱と分割状態のカシミールにおけるパキスタンの無分別なイニシアティブにより,この計画は実行から遠ざかりつつある.インド,パキスタンはラホール宣言で合意した核リスク削減措置を実行に移す義務がある.両国間に,信頼のおける対話のチャンネルを確立することが必要である.核武装戦力を危機の最中に警戒体制においたり移動させたりしないよう,再確認措置が必要である.緊張地域におけるミサイル飛行実験や通常軍の演習を事前通告することは必要不可欠である.東京フォーラムはラホール宣言により始まったプロセスを強く支持し,武力により立場の相違の解決を目指すあらゆる試みを拒否する.東京フォーラムは,国連安保理の常任理事国およびその他の国に対し,ラホール宣言への協力を支持し,カシミール紛争解決のため2国間交渉で合意に達した事項の実施に協力するよう求める.とりわけ,99年の紛争の結果,カシミールにおける新たなイニシアティブが必要である. 38 中国が南アジアに対する核政策を抑制しているなか,中印両国が新たな信頼再確認措置をとることにより,両国の脅威認識は大きく低下するであろう.中国の核廃絶は,米ロの核廃絶との関連においてのみ可能であり,近い将来の提案としては非現実的である.しかし,ひとたび,米ロの核保有数の上限が引き下げられれば,中国は世界規模での核軍縮プロセスにおける役割を果たすべきである.一方,中国が隣国との信頼を醸成し,隣国の脅威認識を除去する方策を講じれば,中国は最強の地域大国として,その立場を強めるであろう. 39 東京フォーラムは中国およびインドに対し,両国の国境付近に短距離ミサイルを配備しない旨の検証可能な誓約を求めるとともに,長距離弾道ミサイルの配備を凍結または控えるよう求める.さらに,中国およびインドは1987年の米ソ間の中距離核戦力条約(INF条約)の条項に照らし,500〜5500kmの射程をもつすべての地上配備ミサイルの放棄を表明することもできよう.そのような措置は米ロの軍縮措置と整合性のあるものとなろう.もし米ロの核軍縮プロセスがこの報告書の提言のとおり,STARTまたは並行的かつ相互検証可能な方法により勢いを得て進展するならば,中国がそのような提案に同意することはありうるであろう. 中 東 40 中東はきわめて不安定な,紛争の絶えない地域である.1945年以来,主要な紛争が数回発生している.中東紛争,80年代のイラン・イラク紛争および,91年の湾岸戦争である.この地域は,さまざまな合従連衡,未解決の敵対関係,そしてあくなき大量破壊兵器開発計画によって特徴づけられる. 41 中東で核兵器を開発した最初の国はイスラエルで,周辺諸国と異なり,NPTには加盟してない.イスラエルの核は,同国の戦略環境に対する考え方をもって理解されるべきである.イスラエルは核の保有につき肯定も否定もしていないが,航空機あるいは中距離ミサイルに配備可能な高度な核戦力を保有していると広く信じられている.イスラエルは,その存在を認めようとしない諸国に包囲されていると考えている.イスラエルは周辺諸国に対抗するための通常兵力を保有しているが,その人口,経済力,そして実質的には軍事力でも,周辺諸国を大幅に下回っていると考えている.このためイスラエルは核兵器を,生存に不可欠な抑止の手段とみており,イスラエルと周辺諸国を含む地域には,核の価値低減を可能にするような平和的環境が欠けている. 42 アラブ諸国の視点からは,状況はまったく異なってみえる.大半のアラブ諸国は,イスラエル国家の存在を受け入れる準備がある一方,イスラエルによるNPT加盟拒否,パレスチナ国家の否定,アラブ地域の占領継続,さらにミサイルや通常兵器能力の開発政策は,受け入れることができない.イスラエルの化学・生物兵器による戦闘能力もアラブ諸国の懸念の対象である.アラブ諸国はまた,イスラエルのミサイル防衛システム(アロー)と情報衛星の開発と配備に対する米国の継続的な技術支援についても批判的である.アラブ・イスラム諸国の間ではイスラエルの核能力に対する,根深い脅威の念が生まれており,これが1995年のNPT延長・再検討会議でとくに明らかになったように,アラブ・イスラム世界におけるNPTの支持を低下させている. 43 和平プロセスが開始され,合意が達成されたことにより,イスラエルとアラブ諸国の間で,核問題の解決を含む和平への道が開かれるかもしれない.エジプト・イスラエル平和条約,マドリード中東和平会議,オスロ合意,あるいはイスラエル・ヨルダン平和条約で示されたような和平プロセスの成功によってのみ,核問題の深刻さが軽減され,イスラエルの究極的な核兵器の放棄は可能になると考えられる.1996年から99年までのイスラエルの政策から和平プロセスは無視されていたが,今,和平プロセスは再活性化されつつある.東京フォーラムはそれゆえ,この地域の安定と核不拡散の将来のために,アラブ・イスラエル間の和平プロセスがきわめて重要であることを強調する.和平プロセスの成功は中長期的に,中東からの核兵器やあらゆる大量破壊兵器の除去を促進するであろう.和平プロセスと大量破壊兵器の軍縮はまさに,平行して進められなければならない. 44 しかし,中東にはこれ以外の核拡散の危険が存在する.イラク,イラン両国は核兵器や他の大量破壊兵器およびミサイル計画の推進により,イスラエルおよび周辺諸国にとって安全保障上の深刻な懸念となっている.イラクは核兵器の開発計画を秘密裏に進めており,米国政府によればイランも核兵器製造を目指しているという.イランは最近,射程距離1500キロの弾道ミサイルの実験を行った.その一方で国連イラク大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)によるイラクの査察は中断されており,適切な形で再開される見通しはない.イスラエルの核戦力に加え,もしイランまたはイラク,あるいはその両者が核弾頭付き中距離弾道ミサイルを保有すれば,中東地域はますます不安定になるであろう.これらの国々の規模や戦略的脆弱さの違いが,流動的で危険な力関係を生み出し,これが破滅的な結果を招く可能性がある. 45 弾道ミサイルとその技術の導入が,中東の安定にとくに脅威となっており,問題はさらに中東地域を越えた広がりをもちつつある.当面の課題として,東京フォーラムは,核供給国グループ(NSG)およびミサイル輸出管理レジーム(MTCR)の輸出規制に参加するすべての国,とくにロシアに対し,ミサイル関連技術・専門家を含むあらゆる拡散の回避に全力をつくすよう,緊急に訴える.東京フォーラムはまた,北朝鮮や他のMTCR非加盟国が,機密性の高いすべてのミサイル技術を中東へ移転しないようこれら諸国を説得するための努力を支持する. 46 中東地域における潜在的な核拡散の担い手が,ロシアやカザフスタン等の地域にある,管理が行き届かない核物質を入手しようとの誘惑に駆られるかもしれぬことは,新たな懸念材料である.国際社会はロシアやカザフスタンとあらゆる協力を行って,核物質を安全に保管すべきである. 47 東京フォーラムは国連安保理,とりわけ5常任理事国に対し,安保理決議と1991年に安保理が可決した長期監視計画に基づき,イラクに対する長期的な大量破壊兵器規制体制の早急な確立を求める.東京フォーラムはイラクに対し,関連する安保理決議の遵守を求め,また常任理事国に対しては,全中東諸国の問題を扱う際,核不拡散問題を優先するよう強く求める. 48 東京フォーラムは,中東地域のすべての国に対して,信頼と安心を醸成する措置を一方的にとるよう求める.東京フォーラムは,中東地域のすべての国に対し,NPTに加盟し,CTBTを批准し,国際原子力機関(IAEA)の最近の追加議定書を含め,あらゆる核物質に関する保障措置を法的に受け入れ,CWCを署名・批准し,NPTが疑問の余地なく確実に遵守されるさらなる手段をとるよう求める.東京フォーラムはイスラエルに対し,保障措置がとられていないディモナの原子炉を停止するか,ただちに国際的な保障措置の下におくよう求める.中東地域のすべての国はミサイル発射実験を中止し,ミサイル計画を自粛すべきである.ミサイル拡散を制限する地域協定の交渉が開始されるべきであり,その際,1987年の米ソのINF条約の規定に準拠することが有益であろう. 49 東京フォーラムは,アラブ・イスラエルの多国間交渉プロセスが,軍備管理・地域安保プロセス(ACRS)の再活性化により促進するものと信じる.東京フォーラムは中東における非大量破壊兵器地帯の創設が真剣に検討されるよう強く提言する.こうした地帯の創設は,アラブ・イスラエル和平プロセスが成功裏に終結し,イラン・イラクにおける実質的な政策変更があってはじめて可能だろう.われわれはイラン,イラクに対し,ACRSプロセスを含むアラブ・イスラエル和平プロセスに加わるよう求める. 50 この中東非大量破壊兵器地帯では,核兵器,化学・生物兵器の保有は禁止される.この地帯では,チャレンジ査察も含め,IAEAの改善された保障措置よりもはるかに厳しく強硬な検証措置が必要であろう.監視には,国際機関や個々の国家,あるいは両者を含む外部からの支援が必要である.安保理常任理事国は同地帯創設において,保障の提供や履行の支援などを含む,特別な役割を担う必要がある. 北東アジア 51 北東アジアでは北朝鮮が,緊急かつ重大な大量破壊兵器およびミサイル拡散の脅威を生み出している.これら不安定要因である北朝鮮の大量破壊兵器とミサイルの開発計画を止めさせ,白紙に戻すことに成功し,かつ国際的な不拡散の努力がなされれば,北東アジアにおけるさらなる拡散の出現を阻止しうるであろう.核拡散が懸念される他の地域同様,北東アジアでも,すべての国の安全保障上の懸念が軽減されれば,拡散のリスクは最小限に抑えられるであろう.北朝鮮の核拡散は,同国の病める全体主義政権が抱える問題と関係している.北朝鮮はその体制および,自らもたらした国際的孤立のために苦しんでいる.飢餓と貧困は広範に拡がり,経済は崩壊寸前である.北朝鮮指導部の好戦的行動は,政権を可能なかぎり長く存続させようとの試みの一つにみえる.現政権がどの程度存続するのか,どのようにして政権を放棄するのか,打開策の一つとして戦争に訴えるのかどうかは,依然として不明である. 52 北朝鮮が,核兵器開発計画に利用できる原子炉,すなわち比較的濃縮度の高い兵器級プルトニウムを製造する原子炉に基づいた核計画に着手したことが明らかになった1990年代の初頭,同国の核計画は国際的な関心を集めた.94年10月の米朝枠組み合意は,このタイプの原子炉を軽水炉に取り換え,すべての疑惑ある活動に終止符を打つためのものであった.協定は履行されつつあるが,北朝鮮指導部が合意を誠実に履行する用意があるかどうかについては疑念がもたれている.99年5月に行われた,核兵器計画の疑惑がもたれた地下施設への米国代表団の訪問では,疑惑を裏付ける証拠は見つからなかった.これは一つの進展ではあったが,結論を下すには早すぎる. 53 1998年8月,北朝鮮は,射程距離1500キロ以上のミサイルの発射能力を保持していることを証明した.概して技術や産業の水準が低く経済が低迷している国としては,異例の出来事であった.外国のミサイル技術や技術者が,北朝鮮の計画に関与している疑いがある.この核開発計画は北朝鮮の攻撃能力を大幅に向上させたばかりではなく,他の地域での軍備競争に拍車をかけた.パキスタンのガウリ・ミサイルとイランのシャハブ・ミサイルは,北朝鮮の試作品と同じタイプとみられる. 54 東京フォーラムは,朝鮮半島の非核化という目標の早期実現のため,最善の努力を国際社会に求める.東京フォーラムは北朝鮮に対し,核兵器やミサイルに関わるすべての活動を中止し,1994年の米朝枠組み合意の完全履行を求める.枠組み合意の財政的,技術的な意味はきわめて複雑で,日本,韓国,米国,EUなどを含む多くの国の継続的な支援を必要としている.もし北朝鮮が核搭載可能ミサイルの発射実験を継続し,ほかにも周辺国を威嚇する姿勢を示すならば,この支援は消滅する.東京フォーラムは国際社会が北朝鮮に対しCTBTを早期に署名,批准し,NPTとIAEA保障措置協定を実行し,同協定の追加議定書を受け入れるため,強く要請するよう求める.これらの保障措置を厳格かつ検証可能な方法で履行することは,北朝鮮の核計画につきまとっている不透明感を払拭し,新たな危機を未然に防ぐ唯一の方法である. 55 北東アジアの現状からみて,東京フォーラムは,北朝鮮によるMTCRのガイドラインに沿った輸出規制の厳格な履行の必要性を訴え,核兵器技術および核兵器用物質のこれまで以上の厳格な規制を求める.東京フォーラムは国際社会に対し,核兵器用物質,ミサイル技術および他の大量破壊兵器の製造につながる物質が,北朝鮮に渡らないよう,緊密に協力すべきことを訴える. 56 東京フォーラムはまた,北朝鮮からミサイルや核兵器が継続的に他の地域へ拡散するのを防ぐ措置を早急にとるべきであると考える.ミサイルや核兵器の拡散が国際的な平和と安全に与えうる脅威を考えると,これらの防止措置には,北朝鮮当局を含めた2国間や多数国間の協議が含まれ,国際的な経済制裁から国連憲章第7章に基づく強制的な行動まで含まれる.こうした制裁は北朝鮮および,北朝鮮からミサイルや関連品目を購入している国の両方に適用されるであろう.しかし,もし北朝鮮が周辺国を安心させ,しかるべき国際的な不拡散の規範に完全に従うなら,そうした防止措置は必要ではない.東京フォーラムは,すべての国が北朝鮮をこうした問題に関する建設的な対話に参加させるため努力することを強く提言する.
第3部 核拡散の阻止と巻き返し
21世紀における拡散問題 1 核兵器のグローバルな拡散を阻止し,もとに戻すため,国際社会は,協調して核拡散の危険の程度を認識し,包括的な戦略に基づいた是正措置をとる必要がある.NPTは,こうした協調行動の基盤となるものであるが,核兵器国も非核兵器国も,NPT体制のほころびを修復するだけの十分な行動をとっていない.NPTは再確認され,再活性化されなければならない. 2 包括的戦略は,非核地帯や効果的で公正な輸出管理を含む,地域的あるいは国際的な不拡散制度や取り決めを活用する.広範な透明性の確保と監視により,世界にある膨大な量の兵器用核分裂性物質の規制を強化することは,核兵器のさらなる拡大を阻止するうえで不可欠である.弾道ミサイルも核拡散の危険を高めており,いかなる包括的不拡散戦略であろうとも,弾道ミサイルの拡散抑制を含む必要がある. 3 21世紀を目前にして,冷戦終結により生まれた,普遍的で効果的な地球規模の核不拡散体制を目指す勢いは失われかねない状況にある.多方面から新たな核拡散の挑戦がなされている.管理の不十分な物質・技術・武器が国境を越えて不正に流出しかねない.NPTや地域的取り決めを遵守しているとする国にも秘密計画があるかもしれない.テロリストが核の技術や物質を取得するかもしれない.核兵器の材料はますます安価で容易に入手可能となるかもしれない.技術先進国が通常兵器面で軍事的優位にあるとの認識により,他の国がますます大量破壊兵器に価値を見出すかもしれない.ある国や地域での拡散がほかにも伝播していくかもしれない.こうした挑戦に,いかに対処すればよいであろうか. NPTの強化 4 NPTはグローバルな核不拡散の礎石である.NPTは核兵器国と非核兵器国間の中核的なパートナーシップと,核兵器の保有を自制し,これを廃絶するという厳粛な盟約に依っている.この条約が存続し,新たな拡散の脅威に効果的に対処していくには,このパートナーシップが再確認される必要がある.NPTは,1967年1月以前に核装置を爆発させた国として定義される五つの核兵器国以外への核拡散防止を目的としている.したがって,98年5月に核実験を行ったインド,パキスタン両国を核兵器国と認識することは,核拡散を容認する危険な前例を作ることになる.一方,たんに両国の行為と能力を無視すれば,地域の軍備競争と核危機の可能性を増大させ,核兵器技術が当該地域から非核兵器国へ移転される可能性を残すことになりかねない.それゆえ,NPT加盟国は,核拡散を容認することなく,国際的な不拡散努力に対するインドとパキスタンの協力をどのように確保していくかという重大な課題に直面している. 5 このジレンマからの出口は,拡散を容認することではなく,不拡散措置を強化し,核兵器の漸進的な削減,廃絶により,NPTの基本的要請を満たすことである.前者の緊急対策は,NPT保障措置協定に対する国際原子力機関追加議定書の受け入れと実施を促進させ,これを新たな不拡散の基準とすることである.後者のそれは,核兵器の数やその過大な評価を低減し,核兵器の保有量と兵器用核分裂性物質の在庫を透明にすることである.NPT体制が差別的であっても,核兵器国,非核兵器国がおのおのの約束を遵守すれば,条約は道義的,実際的な欠陥をともなうことはない.しかしながら,約束が遵守されなければ,体制は確実に弱体化し,条約に忠実な加盟国が条約を強化することはおろか,それを維持することすらますます難しくなろう. 6 NPT再検討会議でしばしば表面化したようにNPTに規定されている不拡散,軍縮,原子力エネルギーの平和利用という一連の項目は,どれが最優先されるべきかをめぐり,意見が分かれてきた.「再検討プロセスと原則の強化」と「核不拡散・軍縮のための目標」および「中東に関する決議」といった決定文書の文脈で達成された95年の無期限延長の際,条約の再検討プロセスも改訂された.これによって,2000年の再検討会議までの期間,実質的事項を審議する権限が準備委員会に与えられた.しかし,この強化されたプロセスは,加盟国間の長期にわたる緊張関係と改訂されたプロセスのあり方についてのコンセンサスの欠如により実現していない.一部の国は,準備委員会は加盟国の会合ではなく,再検討会議の下部機関なので,常設の執行機関や他の常設機関に代わるものではないとしている.NPTには,条約の運用を再検討する会議を5年ごとに開催する規定はあるが,常設機関あるいは執行機関を規定してはいない.そのうえ,条約には,不遵守への対抗措置を決定するメカニズムがない. 7 東京フォーラムは拡散を防止し,これに効果的に対抗するNPT加盟国の能力を高める措置がとられるべきと確信する.われわれは,条約の恒久的な執行・諮問機関の創設を求める.これは,不拡散・軍縮を追求していく全締約国の目的に奉仕する後見機関となろう.こうした執行機関を設ける提案は至急検討されるべきである.加えて,東京フォーラムは,NPT体制の維持,強化のため2000年のNPT再検討会議が重要であり,全参加国が建設的なアプローチをとって,NPT体制の強化を共通の関心事項とすることが必要である点を強調する. その他の多国間の不拡散手段の強化 8 NPTの効果をさらに高め,核不拡散体制に関連する他の多国間制度が強化されなければならない.これには,地域的要素として,とりわけ非核地帯や,非核兵器国に対する安全保障が含まれる. 化学兵器禁止条約(CWC)および生物兵器禁止条約(BWC)の強化 9 CWCの検証制度は国内の実施規定により弱められ,条約不遵守を見つけることがますます困難になっている.加えて,生物兵器の能力が高まり,新しい科学の進展により将来,生物兵器がより容易に入手しうる状況下で,BWCの検証議定書交渉が依然課題となっている.さらに,国際社会は1925年のジュネーブ毒ガス議定書,CWCおよびBWCに対する重大な違反やその他の条約不遵守を適切に取り扱う方法を有していない.国際社会がこれらの条約のための強化された検証手段や,不遵守を取り扱うための効果的な措置を採用しなければ,化学・生物兵器の脅威は,国際社会にとって重大な懸念となろう. 地域的協定の強化 10 非核地帯の地理的範囲および不拡散面での意義は,核の危険が増しているなか,ますます重要となった.非核地帯条約の核心は,締約国は核兵器を取得せず,その領域への核兵器の持ち込みを認めない点にある.これらの条約は核兵器国は非核地帯条約締約国に脅威を与えず,核兵器を使用しないという,いわゆる消極的安全保障の約束を無条件に行うことを核兵器国に義務づけている.このような無条件の消極的安全保障と非核地帯条約締約国による約束は,国際的な不拡散合意におけるものよりも踏み込んだものとなっている. 11 これらの地域的協定は,国際的な体制に比べ,より広範な不拡散・軍縮の目標を設定している.これらは,多数の国,とりわけ開発途上国が軍縮と不拡散に取り組んでいることを示す意味でも,特別な意味がある.地域的な非核地帯は,周辺諸国間で高度な信頼関係を築き上げることができる.効果的かつ国際的な体制に替わるものではなく,双方がそれぞれを補完し合うものである. 12 非核地帯を創設する条約は1967年にラテン・アメリカで,85年に南太平洋で,95年には東南アジアで,96年にはアフリカで調印された.いずれの条約も特定地域内での核兵器を禁止し,国際原子力機関に検証責任を負わせ,恒久的な条約機関を設置している.95年のバンコク条約は,疑惑に対する明確化や,実態調査団および原状回復の手続の要請など,条約不履行の疑惑に対する制度をもっている.96年のペリンダバ条約は,遵守規定,現存の核爆発装置破壊のメカニズム,非核兵器国への輸出条件に関する合意,核物質や施設の核防護要件,および地域内の平和目的原子力施設に対する攻撃禁止規定を有している. 13 核兵器を特定地域から排除することを目的とした協定として,1991年に朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国によって調印された朝鮮半島非核化共同宣言がある.これに引き続き92年に,南北共同核管理委員会の設立と運営に関する協定が結ばれた.94年の米国と朝鮮民主主義人民共和国の枠組み合意は,朝鮮半島を非核化する目標を再確認した. 14 中央アジア非核地帯創設の作業は進展をみせており,5カ国が条約案に同意し,現在5核兵器国と協議している.こうした地帯の創設は,国際的な不拡散を追求していくうえでますます重要となりつつある.こうした地域を,中東,中欧,南アジアで創設する意欲は長年にわたって存在している.南半球の非核地帯の連携を正式なものとする提案もなされている.これが実現されれば,南半球のほとんどすべての国が非核地帯内に入り,100カ国以上が,核兵器国から無条件の消極的安全保障を受けることとなる. 15 東京フォーラムは全関係国に対し朝鮮半島の非核化をできるだけ早急に実現するためいっそうの努力を行うよう求める.バンコク条約,ペリンダバ条約およびこれらの議定書を全面的に発効させ,それぞれの地域機関を設立するために多くの努力が必要である.さらに,東京フォーラムは,中央アジア非核地帯条約の早期締結と発効を強く支持する.新たな非核地帯の創設を促進し,既存の非核地帯とリンクさせる努力が必要である. 安全保障(Security Assurances)の強化 16 核兵器を非核兵器国に対して使用しないという保証は,多数の非核兵器国が国際的不拡散体制への支持を維持し強化するために安全保障上の強いインセンティブを与える.しかしながら,核兵器国は,一方的な消極的安全保障を法制化するための共通形式にまだ合意しておらず,そうした保証を,多国間の法的枠組みにすることができない.問題は,それぞれの核兵器国が消極的安全保障の実施の前提とする条件が異なることにある.すなわち,そうした保証がNPT加盟の非核兵器国にのみ与えられるべきか,普遍的に与えられるべきか,そのための交渉がNPTの場あるいは軍縮会議で行われるべきかといった点である.東京フォーラムは,核兵器国に対し,NPT加盟の非核兵器国に対する消極的安全保障の共通形式につき積極的に合意を図り,法的拘束力をもつ協定を目指して交渉する可能性を探求するよう要請する. 17 東京フォーラムは,核兵器により威嚇されあるいは攻撃を受けた国に対する支援の保証を含む積極的安全保障が,非核兵器国にとり不拡散を支持するためのさらなるインセンティブとなり得ることに留意する. 18 1992年1月,国連安全保障理事会の議長は安保理メンバーの名において,すべての大量破壊兵器の拡散は,国際の平和と安全の維持に対する脅威であると宣言した.東京フォーラムは,国際社会がこの宣言を安保理決議により再確認するよう求める.拡散がこのように定義されれば,拡散国に対する制裁は安保理を通じより容易に行われるであろう.東京フォーラムは,国連安保理の常任理事国に対し,大量破壊兵器の使用や使用の脅威にさらされている国連加盟国を支援あるいは防衛する努力に逆行する形での拒否権行使を控えることを表明するよう求める.東京フォーラムは,現在および将来のすべての安保理常任理事国が不拡散に関する模範的な信任を有するべきと考える. 兵器用核分裂性物質の管理強化 19 世界が直面しているもっとも緊急の核拡散問題の一つは,貯蔵されている兵器用核分裂性物質を安全に保管し,安全かつ不可逆的に処分することである.問題がもっとも深刻なのは,ロシアおよびその他の旧ソ連地域である.世界に約3000トンのプルトニウムと高濃縮ウランが存在しているが,IAEAの保障措置の下に置かれているのは1パーセント以下である.世界のプルトニウムと高濃縮ウランの3分の2は軍事目的で生産された.さらに,その3分2に該当する約1300トンは,軍事的な必要量を越えた余剰であるとみられている.米国とロシアは,それぞれ数百トンという世界最大の兵器用核分裂性物質を貯蔵している.仏,英,それに伝えられるところでは中国もそれぞれ,おおよそ数十トンずつを保有し,インド,パキスタン,イスラエルはそれぞれ数百キロを貯蔵しているといわれている.しかし,それぞれの国の貯蔵量だけで脅威の度合が測れるわけではない. 核分裂性物質生産中止宣言 20 仏,ロ,英,米はもはや核兵器に使用する核分裂性物質を製造しないことを公式に表明している.中国も兵器目的の核分裂性物質の製造を止めたことを非公式ながら示唆している.もし,中国が公式表明により,この非公式な保証を確認すれば,兵器用核分裂性物質の管理は大きく進展するだろう.インドとパキスタンは積極的な生産計画を有し,両国の兵器級核物質の貯蔵量は増加しているとみられる.イスラエルが兵器目的の核分裂性物質の生産を続けているかどうかは不明である.インド,パキスタン,イスラエルは,カットオフ条約が締結される前に,可能なかぎり早急に兵器目的の核分裂性物質生産のモラトリアムを宣言すべきである. カットオフ条約交渉の促進 21 カットオフ条約(FMCT)は,核不拡散の成功の前提条件であり,また核軍縮のための礎石である.この条約は,核拡散の抑止に寄与し,秘密裏の生産,取得を探知し,監視することを可能とする.東京フォーラムは,1995年のシャノン・マンデートを基に軍縮会議がカットオフ条約交渉を行うことを要求する.軍縮会議は,条約交渉のための特別委員会の設立を98年8月まで延期させ,その再設立を本年も挫折させた政治的停滞を克服しなければならない.同条約は可能なかぎり早急に締結されなければならない.しかしながら,貯蔵された核分裂性物質の問題は重要である.東京フォーラムは,この貯蔵問題はカットオフ条約交渉を促進させるために,公式の条約交渉とは別に,並行して議論されるよう求める.同条約の下での検証方法については,NPT/IAEAの追加議定書を含む保障措置を強めるべきである. 透明性の向上 22 NPTの下,非核兵器国は核分裂性物質をIAEAの保障措置の下に委ねる義務を負っているが,核兵器国やNPT未加入国の兵器用核分裂性物質を規制する条約はない.しかし,核兵器国の一部は,その計量管理を支援する措置を行ってきている.核兵器国,非核兵器国とも,兵器用核分裂性物質は国家管理の下にあるが,外部の監視の対象となっていない.また,国内の責任ある機関が,つねに完全に立法機関に対して説明する義務も負っていない. 23 核兵器計画をもつ国は,兵器用核分裂性物質の詳細を長い間機密扱いしてきたが,冷戦終了後,部分的な透明性を自ら受け入れた国もある.米国はプルトニウムと高濃縮ウランの保有量を公表するプロセスをとり始め,1993年,軍事目的で製造,使用された核分裂性物質に関する情報を開示する「公開イニシアティブ」を開始した.94年6月と96年2月には,プルトニウムについての詳細が公表され,高濃縮ウランについても同様に明らかにされた.98年,英国は兵器用核分裂性物質の貯蔵量を発表し,また,より広範な監査の結果も公表する旨約束した. 24 東京フォーラムは,保障措置の対象となっていない核分裂性物質を持つすべての国,すなわちすべての核兵器国およびNPT未加入国が,自発的にこれら貯蔵物質の透明性を高めるよう求める.まだそうした措置をとっていない国は,貯蔵に関して国内監査を始めるべきであり,その結果は毎年公表されるべきである.こうした透明性措置は,信頼醸成におおいに役立ち,カットオフ条約交渉を促進するであろう.核分裂性物質の透明性措置は,地域レベルのものも含めIAEAと連携協力して,核物質計量管理に関する完全な透明性が確保されるものとして作られるべきである. 核テロの防止 25 管理が不十分な核分裂性物質は,核兵器を求めている国家のみならず新しいタイプの潜在的な拡散者,すなわち核テロリストにとっても魅力あるものである.過激な政治的集団,狂信的集団あるいは犯罪集団など,敵対目的をもった非国家勢力が初歩的な核兵器に必要な材料と技術を取得する可能性が,現実のものとなっている.核テロ行為が生じれば破局を招くが,こうしたテロから安全な国はなく,もっとも強大な国が標的となる可能性が一番高いかもしれない.各国政府は情報交換等によりテロの発見・対応能力の向上を図るだろうが,テロリストはつねに発見が難しく,これを抑止するのは難しい.東京フォーラムは大量破壊兵器が,過激集団や狂信的集団や犯罪集団の手に渡らないように地域的・国際的な協調体制がとられるよう求める.ロシアによって提唱され,現在国連で交渉されている核テロ国際条約等の新たな法規範が,核テロと戦う努力を支援していくであろう.この条約が効果的であるためには,既存の法的手段と一体化される必要がある.国際規範と現存の法的手段を強化するいかなる措置も,支持に値する. 核物質の防護・管理の改善 26 兵器用核分裂性物質の盗難や秘密裏の転用の防止を目的とした物理的防護のための国際基準を改めることが急がれる.これら物質は,施設のなかでも輸送中でも適切に管理されていなければならない.このためには,正式な警察力を持つ,武装警備員,防護册や監視設備,特別貯蔵施設,容器や車両が必要である.1987年に発効した核物質防護条約は,すべての関係国により締結され,完全に実施されなければならない.現在,主として輸送中の核物質防護に関係している条約の対象の拡大も早急に検討すべきである.照射済み核燃料,プルトニウム,高レベル放射性廃棄物の安全な海上輸送のための94年の核防護条約,使用済み核燃料管理と放射性廃棄物の安全に関する97年の合同条約も,核物質の盗難や兵器使用への転用防止に役立つ. ロシアにおける管理と脅威削減計画の強化 27 ソ連の消滅以来,旧ソ連地域における膨大な量の兵器用核分裂性物質の安全性がおおいに危惧されてきた.ソ連における物質計量手法はさほど厳密でなかったため,問題はかなり広範にわたっている.ロシアでは,経済的危機により,解体核から出たものを含む兵器用核分裂性物質が貯蔵所から運び出され,違法に移転される危険が高まっている.こうした事態を防止するため重要なイニシアティブがとられてきてはいるが,核物質の量からみていっそうの努力が必要である.廃棄物として貯蔵するにせよ,または燃料として燃焼するにせよ,処理された量はきわめて少ない.保安要員の給与が未払いとなっているなか,拡散者の工作員たちが兵器用核分裂性物質を捜し求めており,そのわずかな量でも,初歩的な核兵器計画に大きく役立つ.東京フォーラムは,核の不法取引と戦うための国際協力を緊急に求め,警察,情報当局,関税当局およびIAEAが相互補完的な役割を果たすことを要請する. 28 ロシアと他の独立国家共同体(CIS)諸国の核物質の防護,管理,計量を改善していくためにさらなる国際協力が必要である.1994年以来,米国,日本,EUを含む多数の国が資金や専門知識を供与してきた.ナン・ルーガー協調的脅威削減計画(CTR)の下,米国は18のプロジェクトに対し約18億ドルを供与した.他のG7各国もこれよりもかなり額は少ないが資金供与をしてきた.こうした支援は,引き続き核兵器の廃棄,強化容器の提供,兵器用核分裂性物質の貯蔵施設や運搬,混合酸化物(MOX)燃料リサイクルの研究などの面で強化される必要がある.国際科学技術センター(ISTC)が旧ソ連科学者のための民生プロジェクトに資金を提供し続けるためには支援が必要である.国際社会は,緊急にロシアにおける脅威削減計画を拡大する必要がある.最近,米国は,ロシアの財政危機によるプルトニウム管理弱体化等の拡散の脅威に取り組むため,「拡大脅威削減イニシアティブ」に45億ドルを支出することを発表した.東京フォーラムは他のG7諸国に対し,脅威削減計画に追加的支援を行うよう求めるとともに,国際社会のメンバーに対しても米国の例にならうよう求める. 29 東京フォーラムは,ロシアやその他の旧ソ連諸国における高濃縮ウランやプルトニウムの管理体制の確立と処理のペースがきわめて遅く,これらの物質が流出する危険がきわめて高いことを大変懸念している.旧ソ連諸国における,プルトニウムや高濃縮ウランの物理的管理と早急な処理を確実なものとするため,より多くの国によるいっそうの努力が必要である.処分計画は,完了の期限を明示したより厳しいスケジュールの下で行われるべきである.余剰高濃縮ウランは,民間の発電用に供すべく,早急に低濃縮ウランに転換されるべきである.こうした課題に係る費用は高いが,最短時間で問題に対処するため民間および政府資金を含むできるだけ多くの資源を確保すべきである. 核分裂性物質の検証と保障措置の拡大 30 民生用・軍事用の核物質につき,登録制の導入を含め,監視・管理を強化していくことは,技術的な障壁はあるが,克服不可能なものではない.非核兵器国における原子力産業は,以前からIAEAの国際査察の対象となっており,査察の範囲も拡大されつつある.その他の国においても,軍事用,民生用の核分裂性物質の生産について広範な記録が残されているものと考えられる.とりわけ核兵器国の政府にその貯蔵を申告する用意があれば,国際的検証は実施可能である. 31 カットオフ条約の検証は,核兵器国における現存の兵器用核分裂性物質の初期貯蔵量に関する信頼できる基礎データなしには困難であろう.カットオフ条約が交渉され,妥結すれば,データの透明性と利用可能性が高まることが期待される.これは,保障措置の普遍化に向けた重要な一歩となろう. 32 東京フォーラムは,全NPT加盟国が現存の保障措置協定の追加議定書を発効させることにより,IAEAに保障措置実施のための追加権限を与えるよう求める.東京フォーラムは,意図的な違反への対処に保障措置ができるだけ効果的であるためには,同措置がつねに改善されていく必要がある点にも留意する.保障措置の査察活動を拡大させるには,もちろん追加的な資金が必要となろうが,IAEAの保障措置の査察の方法と手続に以前から求められてきた変更に対する政治的障害がとりのぞかれれば,コスト増は最小限にとどめられよう. 33 貯蔵されている兵器用核分裂性物質の余剰分をIAEAの検証に係らしめるための技術的,法律的,財政的問題を調査するため,1996年,IAEA,米国,ロシアの3者によりイニシアティブが出された.米ロ両国は申告した余剰物質を,IAEAとの自主的な保障措置協定の下で「現実的にもっとも早い時点で」検証に委ねる旨発表した.英国も,欧州原子力共同体の保障措置に委ねる軍用の「余剰」物質があると表明している.東京フォーラムは,こうしたイニシアティブが広がり加速化していくことを強く求め,他の核兵器国が同様の措置をとるよう奨励する.核兵器計画を持つすべての国は,軍縮諸条約の結果解体される核弾頭から出る物質を含め,余剰の軍事用核分裂性物質に対して,IAEAの保障措置が適用され,早期かつ不可逆的に処分されることに同意すべきである. 34 東京フォーラムは,すべての核兵器国が民生用の核分裂性物質の在庫を,自主的合意に基づきすべてIAEAの保障措置に委ねるよう求める.NPT非加盟国は,一部在庫を,一定の割合でIAEA保障措置の下におくべきであり,また,IAEAと自主的な合意につき交渉すべきである.民生用のプルトニウムや高濃縮ウランを持つすべての国は,その保有量を毎年申告すべきである. 35 東京フォーラムは,NPT加盟国,未加盟国の双方が,核爆発装置用核分裂性物質の生産に使われていた施設をIAEAの保障措置の下におくよう,一方的な形でコミットメントを行い,また,同目的のために用いた施設を廃棄し,解体するよう求める. 核の輸出管理の強化およびその透明性の改善 36 原子力供給国グループ(NSG)およびミサイル輸出管理レジーム(MTCR)の下に調整された各国の輸出管理政策は,核兵器とその運搬手段の拡散を抑制するのに役立っている.しかし,これら管理の効率性と透明性はさらに改善できるし,改善すべきである. 37 輸出管理取り決め参加国は,こうした取り決めが合法的取引を妨害しないと明言しているが,他方で,これら取り決めは排他的であり,差別的かつ透明性を欠くものだとの反対意見も根強い.輸出管理体制に係る見解の相違は,拡散抑制を強化するうえで大きな障害となりうる.輸出管理取り決め参加国は,管理の効果を維持しつつ,体制への批判には建設的に対応していくべきである.東京フォーラムは,1995年のNPTの無期限延長にともなう「原則と目標」に照らし,輸出管理体制の加盟国と非加盟国間の対話と協力を通じ,核関連輸出管理の透明性がいっそう高まることを求める. 38 輸出規制に抵触する可能性のある品目を現に供給している国または今後供給する可能性のある国のなかには,現在輸出管理体制に参加していない国がいくつかある.東京フォーラムは,輸出管理の有効性を損なうことなく,現在参加していないこれらの国々を取り込み,輸出管理体制を拡大するよう呼びかける.このような努力はすでに行われている.ロシアのNSGおよびMTCRへの参加は前向きな一歩であった.次は,中国がMTCRへの参加を前向きに検討する旨公にしているが,この政策を進めるよう中国に対し奨励することがとくに重要である.新しい参加国は,不拡散に効果的な結果をもたらすよう,輸出管理体制の厳格な管理基準に従わねばならない. 39 輸出管理体制に参加していない供給国へのもう一つの対処方法は,参加国と同様,厳格かつ実効性ある輸出管理政策をとるよう奨励することである.これは,参加国数を拡大する努力と並行して行いうる.未加入国との2国間協議や技術支援を含む力強い働きかけをすることは,透明性向上のための努力とともに,これらの諸国が効果的な輸出管理システムを確立するうえで大きく役立つであろう. 40 核拡散につながりかねない物質や技術を供給する際の条件を強化することが緊急に必要である.東京フォーラムは,すべての供給国に対し,核関連品目の輸出の新たな条件として,輸入国とIAEAの間で保障措置に関する追加議定書が結ばれることを規定するよう求める.しかしながら,NSGの参加国は,仕向け地国が追加議定書を締結することにより,管理品目表にあるすべての品目の輸出が仕向け地国へ自由に流入することを意味するのではない,ということに留意すべきである.仕向け地国が拡散懸念を払拭させているか否かを決めるのは,あくまでもNSG各参加国の責任である. 41 東京フォーラムは,ザンガー委員会にのみ参加している国に対し,NSGに参加し,核関連輸出管理をより効果的にするよう求める.東京フォーラムは,輸出許可手続を厳しくすることによりMTCRを強化するよう求める. 42 東京フォーラムは,MTCR輸出ガイドラインの厳格な実施の必要性を再度訴え,ロシアがミサイルと核兵器関連技術,物資の管理を強化するよう求める.この点で,東京フォーラムは国際社会がロシアと緊密に協力し,核兵器やその他の大量破壊兵器物質とミサイル技術が他の国家や非国家の拡散者に渡ることのないよう努力すべきであることを強調したい. ミサイル拡散の抑制 43 弾道ミサイルの拡散問題に取り組まなければ,核拡散に包括的に対応したことにはならない.化学・生物兵器禁止条約,核兵器の拡散と実験を禁止する条約はあるが,とくにミサイルを規制する多国間条約はない.1999年4月にインド,パキスタン両国が中距離ミサイルの発射実験を行った後,国連事務総長は,軍事用弾道ミサイルの開発を規制する国際的な協定が作成されれば,軍備管理軍縮条約の今後の見通しは相当明るくなる旨述べた. 44 戦略兵器制限交渉(SALT)や中距離核戦力条約(INF),STARTといった核兵器の管理に係る過去の米ソ(ロシア)間協定は,弾道ミサイルの管理,削減,廃絶を実現した.このように,核兵器国にとっては,弾道ミサイルは核兵器の運搬と密接に関連づけられてきた.一方,核開発計画や核武装の意図を有していると疑われている国については,弾道ミサイルと同時に,他の大量破壊兵器を入手しようとしているとの疑惑がある.東京フォーラムは,弾道ミサイルの開発,取得,発射実験,生産および配備は地域の平和と安全保障にとって脅威であると信じる. 45 東京フォーラムは,核搭載可能な弾道ミサイルの取得や配備を防止する現実的方法を模索するよう,国際社会に求める.ミサイルの拡散に対処するため,MTCRの枠外でのミサイル関連技術の国外移転に懸念を有する国々の特別会合を開催すべきである.1987年のINF条約の規定に基づく,国際的あるいは地域的なミサイル協定につき交渉することは真剣な検討に値しよう.INF条約の多国化は,特定の国を差別することなく,南アジアにおける脅威認識を軽減させるためとくに効果的であろう.別の方法は,中東,南アジア,北東アジアにおいて2国間あるいは地域的な枠組みを作ることである.関係国のもつ安全保障上の関心には適正な考慮を払う必要がある.安全保障対話の強化がミサイル拡散に対抗する地域的取り組みを検討する環境を醸成するであろう.
第4部 核軍縮の達成
1 核兵器の使用のもたらす結果は壊滅的であり,その影響は長期間に及ぶ.広島と長崎が被った壊滅的影響とそこからの回復のための苦難を,他のいかなる都市も経験することがあってはならない.大量破壊兵器の廃絶は,国際社会の長年の目標である.1996年のキャンベラ委員会報告書の公表以降起きた多くの変化のために,核廃絶に向けた見通しは暗くなっている.国際社会は,核拡散の危険と核軍縮に向けた挑戦のいずれを選ぶかの分岐点に立っている.しかし,われわれはそこにたたずんでいることはできない. 2 今後の核軍縮に向けた展望は,核不拡散の取り組みの成否に分かち難く結びついている.核軍縮に向けた動きがなければ,不拡散の規範は弱まらざるを得ない.他方,不拡散における成功がなければ,核兵器廃絶という目標の達成もおぼつかない.NPTの中核をなす核兵器国と非核兵器国間の合意は強化されなければならない.さもなければ,21世紀においてさらなる核拡散が進み,核兵器の価値が再び見直されてしまうであろう. 3 核兵器国は,条約上,核弾頭の削減および廃棄を段階的に進める重大な義務を負う.同時に,非核兵器国もNPT体制をより強固に堅持する義務を負っている.具体的には,CTBTのすみやかなる発効のための措置を講ずること,FMCT締結に向け至急取り組むべきこと,強化されたIAEA保障措置を受け入れることによって,NPT体制強化に貢献しうる.このように,東京フォーラムは,すべてのNPT加盟国に対して,NPTのもとで核兵器国と非核兵器国が行った基本的な約束に関して,改めて忠誠を誓い,実行していくよう求める. 4 核軍縮の中心的な問題は,核抑止あるいは核廃絶が国家や地域,あるいは国際社会の安全保障を増進させるのか否かである.核兵器国は自国の安全保障が核兵器保有により強化されると主張する.しかし,かかる核兵器国の姿勢が,対立する国々を大量破壊兵器保有に走らせ,核兵器国や周辺非核兵器国の安全保障の悪化を招いてきたのかもしれない.国家,地域,国際社会の安全保障は核兵器の保有によって強化されることはなかった. 5 核兵器維持論者の一部は,核兵器が,核および生物・化学兵器の使用あるいは通常兵器による大規模な侵略を抑止することによって,安全保障が高まると主張する.東京フォーラムは,核兵器が廃絶されるまでの間,核兵器の持つ唯一の機能は,核の使用を抑止することに限られると信ずる.しかし,この中核的機能も暫定的なものであり,国際司法裁判所が全員一致で確認したように,「核軍縮に導く交渉を誠実に行い,かつ完結させる」取り組みが同時になされなければならない. 米ロ核兵器削減の再活性化 6 東京フォーラムは,1993年以降,米ロ間で正式な核兵器削減交渉が進んでおらず,また非公式協議も限定的かつ散発的にしか開かれていない事態を憂慮する.東京フォーラムは,米ロ両国に対し,国際安全保障,軍備管理・軍縮に関して新たな定期的かつ包括的な協議を開始するよう要求する.この協議は,戦略・非戦略の別を問わず,すべての核兵器,ミサイル防衛,さらには,以下に述べる核の危険を低減するための諸措置を対象とすべきである. 7 米ロ間の戦略核兵器削減を再活性化するための創造的な方法が求められている.両国が批准したSTART Iには,さらなる戦略核弾頭の削減にも適用可能な監視取り決めが含まれている.しかし,6年以上前の1993年1月に調印されたSTART IIはいまだ発効していない.START IIに続くSTART IIIに係る2国間交渉に関しては,一連の意欲的な協議目標の概略はとりあえずまとまってはいるものの,米ロの正式交渉は開始されていない.条約締結・実施は,両国による付帯条件,両国間の政治的対立により阻害されている.仮に,ロシア議会下院がSTART IIを批准したとしても,同国による条約の履行は,米国上院が現行ABM条約の維持に同意することが条件となる可能性があり,これは決して保証されていない. 8 START IIが未批准のまま時間が経過すればするほど,本条約の意義は減ずる.今後10年ないし15年間にロシアの配備済み戦略核弾頭数は減少すると広く予想されており,その水準はSTART IIで合意した水準以下になるばかりか,START IIIの目標水準の半分以下になるであろうといわれている.1980年代にロシアが大量に製造した核軍備は全体的に老朽化しており,ロシアにはこの大規模な核軍備を展開しておく資金はない.老朽化による減少数にはるかに及ばない削減数を規定している条約の批准・発効を待つことは,増大した核の危機への対応としては不適切である. 9 米ロは,START IIとSTART IIIの一体化およびSTART IIIの削減目標の大胆な検討が有益と考えられる.これらの条約の正式な批准を待ちつつ,東京フォーラムは米ロ首脳に対し,同時並行的な配備核兵器の解体を通じて核兵器削減を即座に始めることを求める.フォーラムは,両国がこのようなプロセスをもって,戦略核兵器用運搬手段に搭載された核弾頭数を1000発まで削減する旨表明することを求める.正式な条約により,この表明を再確認できる.条約そのものが核の危険削減の進展を遅らせていることが問題の一部となっており,問題解決につながっていない.フォーラムの提案するプロセスは,核の大幅削減の障害である条約批准問題を解決するものとなるであろう. 即時警戒態勢の解除 10 核兵器肯定論は,ほとんどが時代遅れであり,いたずらに核の危険を高めている.冷戦終結にもかかわらず,米ロの核攻撃目標に関する方針や警戒態勢がほとんど変わっていないのは驚きである.両国とも数千発ないし数百発の核兵器が即時発射態勢にあり,広範な目標に対し多数の核兵器で攻撃する態勢を維持している.これら目標の必要性および高度な警戒態勢は,核抑止および拡大抑止の理論では十分な説明ができず,国際社会の大きな懸念材料となっている. 11 警戒態勢の見直しはとくに緊急の課題である.それは両国において,おびただしい数の核兵器が警戒態勢にあるのみならず,国内に困難な問題を抱えるロシアにとり,核兵器に関する指揮・命令系統が今後数年間でさらに大きな問題となるためである.米ロの警戒態勢の水準は相関関係にあることから,より安全な核態勢をとるためには協調的なアプローチが必要である.東京フォーラムは,米国が早期警戒システムをロシアに供給するとの提案を改めて行い,ロシアがこの支援を受けるよう求める.またフォーラムは,両国が緊密に協力し核兵器の警戒態勢の水準を劇的に低減するよう求める. 12 核兵器の即応態勢の全面解除は,核兵器全廃という目標実現に不可欠な一歩である.この点についてはこの10年間にある程度の進展がみられた.米国は全爆撃機の警戒態勢を解除しており,英仏はおのおの弾道ミサイル搭載潜水艦を一隻のみとし,加えて,発射態勢も大幅に緩和した.中国は,即応態勢よりやや低い状態で核兵器を維持しているという.しかし,なすべきことはまだまだ多い. 13 米ロ両国は,複数核弾頭を搭載した地上発射ミサイルを全廃するSTART IIに調印した.東京フォーラムは両国首脳に対して,同条約発効までの間,可能なかぎりすみやかにそれら核戦力の警戒態勢解除を検討し実施するよう求める.東京フォーラムは,START IIに基づく警戒態勢解除がロシア側に不利であるならば,米国にとって不利に働く潜水艦搭載核弾頭の警戒態勢解除により補完するよう,両国首脳に求める.また,警戒態勢解除の検証措置をどのようにするかにつき議論がなされ実施されるべきである. 14 コンピューターの2000年問題で偶発的な核兵器の発射事故が発生し悲惨な結果が発生しないよう,東京フォーラムは,核兵器の指揮・管理・警戒システムの信頼性に関する潜在的危険が存在する期間中,核兵器の警戒態勢を全面解除するよう緊急提言する. 先制不使用 15 核兵器先制不使用の誓約は,それが核兵器の突出した役割を低減し,他の大量破壊兵器の使用を促すことにならないかぎり有益であろう.しかし,米国との同盟関係とロシアの軍事的難局により,とりわけNATOとロシアが核ドクトリンにおいて先制使用のオプションを維持しているかぎり,その誓約に関する交渉は複雑なものとなろう.さらに,過去になされた先制不使用の誓約のなかには信頼できないものがあった.核ドクトリンが変更され,透明性のいっそうの向上と警戒態勢の緩和を確認しうる検証可能性が強化されなければ,誓約のみでは信頼性を欠くであろう.NATOは先制使用のオプションを見直す体制をとりつつあるが,効果的な先制不使用のコミットメントを実現させるためには,詳細な協議とさらなる努力が必要となろう.東京フォーラムはそのような努力を推奨する. その他の核兵器 16 英仏は配備されていない核兵器を貯蔵してはおらず,他方,中国の未配備核兵器の貯蔵量に関する情報は入手できないでいる.米ロは未配備核兵器を大量に貯蔵している.米国政府は,この大規模な予備軍備を,敵対的なロシアの復活に備えるための「保険」であると説明している.他方ロシア政府も,膨大な戦術核兵器の保有を,通常兵器の弱点とNATOの復活に対する保険政策だと説明している.配備戦力を補完する膨大な軍備の維持は冷戦の遺物である.なぜ膨大な数の核兵器が必要かについての,つじつまの合う合理的な説明をするのは困難である.たとえ米ロ関係が,新しい冷戦状態にまで悪化したとしても,数千発の核弾頭を両国はどのように使うのであろうか.東京フォーラムは,米ロが未配備核兵器の「保険」量を検証可能な方法で,漸進的に削減し,廃絶するための協議を可能なかぎり早期に始めるよう求める. 17 これまで長い間,無視されてきた戦術核兵器の問題がより多くの関心を集めつつある.1999年5月のNPT準備委員会では,多数の国が戦術核兵器の軍縮が緊急の課題である旨表明した.こうした傾向は戦術核兵器に関する関心が高まっていることを如実に示している.戦術核はロシアの核ドクトリンにおいて再評価されており,このことは99年4月29日のロシア安全保障評議会における決定,West99として知られる軍事演習等,最近のロシアの動向に反映されている.99年7月の中国による中性子爆弾の保有宣言もまた注目される.米ロにより91年10月に発表され,92年1月に確認された一方的かつ並行的な戦術核の削減政策は,透明性を保ちつつ,逆戻りしないよう実施されなければならない.中国が戦術核兵器についてさらなる情報を提供すれば,歓迎されるであろう.より一般的には,検証可能な削減と廃絶が戦略核にとどまらず戦術核にまですみやかに拡大されるべきである. 18 戦術核にともなうテロや核拡散の危険は高い.戦術核は比較的盗難に対し脆弱で,旧式戦術核は,指令に基づかない使用を防ぐ措置も十分厳重ではない.現在世界に貯蔵されている核の半分以上が旧式戦術核兵器である.これらの貯蔵を減少させるプロセスは,米ロ間において,検証はされないが実質的な削減から始まった.フランスも戦術核保有量を削減し,英国は廃絶を決定している.東京フォーラムは,戦術核の削減・廃棄は戦略核と並行して進められることが可能であるし,それを確保すべく緊急の措置がとられるべきであると信じる. 多国間による核軍縮 19 米ロの配備済み戦略核弾頭を1000発まで段階的かつ不可逆的に削減するには,10年,あるいはおそらくそれ以上かかる.未配備核兵器の廃絶はさらに時間がかかる.米ロは2国間の削減を加速すべきであるが,他の国はいかなる責務を負うのであろうか.東京フォーラムは非核兵器国に対し,核兵器を取得しない義務を引き続き尊重するとともに,核不拡散体制を支えるためのイニシアティブをとるよう求める.NPTで認められているその他の三つの核兵器国も,「核軍縮に導く交渉を誠実に行い,完結させる」という重要な義務を負っている.東京フォーラムは最初のステップとして,米ロが核を削減している間,英・仏・中が核を増大しないことを求める.NPTではイスラエル,インド,パキスタンは核兵器国とは認められていないが,これらの国も,核能力を増強することで,核兵器の段階的削減と廃絶を困難にしない,という重要な義務を国際社会に負っている. 20 英仏はそれぞれの核戦力を削減し,警戒態勢を緩和してきた.両国のとった透明性措置により,両国が公表した配備兵力削減がすでに実施済みであることが再確認された.公表されている報告書によれば,英仏の核保有量は核兵器国のなかでもっとも少ない.5核兵器国のなかでは,中国の透明性がもっとも低く,核軍縮についての情報は西側情報筋から流れてくる.東京フォーラムは,中国を始め,米・ロ・英・仏に対して,それぞれの核政策やドクトリンおよび核軍備の規模を透明にするよう求める. 21 近年の重要な核軍縮研究の多くは,米ロ間の配備核弾頭が1000発のレベルまで削減した時点から,2国間だけでなく多国間で核保有量を段階的に削減していくことを,提唱している.核軍備の構築に大変な作業と資源を必要とするように,核兵器を削減し,その役割に関する政策を変更し,また最終的にそれを廃絶するのにも同様の努力が必要である.5核兵器国によるハイレベルの政治協力が,あらゆるレベルの核軍縮に欠かせないことは明確である.これを進める一つの方法として,5カ国が各段階で,同時に核保有数を半減させるか,あるいは比例的に削減していくという原則に基づいて条約交渉を行うことが考えられる.この原則は,5カ国すべてが,いっせいにゼロに削減する最終段階までは,各国とも残りの核兵器を保有し,基本的には各国の相対的な核能力を変更しないという点で公平なものであろう.また,もう一つの方法としては,核戦力が技術的に意味を失う水準以下の最小限の数に合意し,この水準まで削減し,その後すべての国がゼロにするということが考えられる.すべての核兵器国による核廃絶の一歩手前までの検証可能な段階的削減のプロセスは,核廃絶論者も核抑止論者もともに認めることができ,すべての国が共通の安全保障上の利益を得ることができる目標である. 軍縮努力の再活性化 22 東京フォーラムは,CTBTに署名し,批准していないすべての国に対して,緊急に署名し,批准することを求める.米国,ロシア,中国,インド,パキスタン,イスラエル,北朝鮮など,条約の発効にその批准が要件となっている国は,批准をすみやかに行う特別な義務を負っている.核実験の停止が,条約発効が確保されるまで維持されるかどうかはわからない.一国による新たな核実験は,別の国による核実験の連鎖につながり,核の危険性を大幅に増大させる.すべての国は核実験の停止を尊重しなければならない.CTBTの発効までの間,東京フォーラムはすべての国に対して,核実験監視制度のための十分な資金拠出とその制度の実施を要請する. 23 東京フォーラムは,未臨界実験がCTBTの目標と目的を損なうか否かという懸念に留意する.この懸念を緩和する方策が探られるべきである.たとえば暫定的な措置として,未臨界実験が条約の目標と目的に抵触していないかどうか確認するための実行可能な監視・透明性確保のメカニズムを導入することが考えられる.これは,未臨界実験を実施している国の間の相互監視により,実現できるであろう. 24 カットオフ条約は1950年代以来,核問題の交渉議題となっている.この条約は核軍縮には不十分であり,核不拡散には重要ではないと考え,その有用性に疑問をもつ向きもいる.東京フォーラムはこの懐疑主義に同調しない.核問題の交渉の進展は,一歩一歩着実に進める仕方で達成されてきた.カットオフ条約は,核分裂性物質に着目した軍縮プロセス推進のため重要な要素であるとともに,核分裂性物質がもたらす危険に対処するために欠かせない一歩である.他方,兵器用核分裂性物質の漸進的削減と廃絶を進めるためには,フォロー・アップも必要となろう.東京フォーラムは,95年のNPT再検討・延長会議によって付託されたカットオフ条約のすみやかな締結を強く求める. 25 核軍備および核弾頭から取り出された核分裂性物質の透明性を向上させるために,国際社会が果たすべき役割もある.この関連で提案されているのは,検証可能な核兵器登録制度である.核兵器の数と種類,運搬手段に装着されているかどうか,貯蔵されているかどうかなど,登録制度に含める項目を決定するため,専門家グループに委託するのがよいかもしれない.戦術核や予備の核弾頭も,これに含められるかもしれない.登録により,新規削減数の計算のため基準となる初期値が明らかとなろう.国連軍備登録制度同様,参加国が毎年,変更数を申告するのも有益であろう.東京フォーラムは国連総会が,核兵器登録制度の実現可能性を調査する権限を事務総長に与えることを求める. 26 東京フォーラムは,民生用,軍事用に生産されたすべての核物質の検証可能な登録制度も重要と考える.われわれは解体された核弾頭から出るすべての兵器級プルトニウムおよびウランをIAEAの保障措置のもとにおくことを強く求める.核兵器開発能力を持つ国がそれぞれの保有量を申告することによってのみ,核分裂性物質の効果的な監視が可能である.効果的な管理のためには,組織的かつ秘密裏の違反を探知するための徹底的な査察を実行する権限をIAEAに付与することが必要である. 27 米ロ関係,米中関係の悪化,NPTにおける新たな緊張,CTBT採択以来の軍縮会議の非効率性に直面し,核不拡散・核軍縮努力を再活性化するためにすべての国がさらなる努力をすることが必要である.東京フォーラムは「新アジェンダ連合」による最近の努力が,核抑止論と期限付き核廃絶論の二つの神学論争にはまり動きがとれなくなっている多国間の議論の場に新たな刺激を与えたことを評価する.東京フォーラムは核不拡散・核軍縮を促進させるための非政府組織(NGO)の努力についても評価する.「中堅国家」とNGO間の創造的な連携は,核軍縮において現在欠如しているリーダーシップを提供しよう. 28 核不拡散・核軍縮の努力は,多国間機構,とくに軍縮会議の再活性化によって大きく実るであろう.軍縮会議は,手続規則を改訂し,作業計画を一新し,目的ある活動を実行すべきであり,さもなければ活動を中止すべきである.軍縮会議は時代遅れの議題に固執しているが,コンセンサスが得られないため,これらを変更できないでいる.些細な手続事項にまで適用される全会一致規則が,長引く行きづまりの原因となっている.多国間条約の協議開始,あるいはその締結のために,軍縮会議参加国の全会一致は必要ではない.もし条約に納得できない国があれば,その国は調印しなければよい.冷戦時代の同盟関係を反映した時代遅れのグループ分けも,現在の世界情勢をよりよく反映すべく変更される必要がある. 29 東京フォーラムは,一部の国が核兵器廃絶条約の早期交渉を重視していることに留意する.この条約の有用性は,その内容である核軍縮実施の誓約がはたして核軍縮を加速させるかどうかにかかっている.NPTは核軍縮の誓約を含んでいるが,その実施は順調だったとはいえず,最近は不十分であった.東京フォーラムは,核の危険が増大する時代には,行動が言葉や誓約よりはるかに重要であると考える.したがって,東京フォーラムは,現時点では,核の危険を漸進的に低減させ,廃絶するための具体的な手段をとくに強調する. ミサイル防衛 30 今後開発が見込まれるミサイル防衛は,核不拡散・核軍縮に重要な意味をもっている.米国におけるミサイル防衛は,国際関係および軍備管理努力を複雑なものにしている.中国およびロシアもミサイル防衛システムに否定的に反応している.英仏も,それぞれの核抑止戦力の価値を低下させるミサイル防衛を懸念している.確かに一方で核拡散はミサイル防衛が必要であるとの認識を高め,ミサイル防衛が不在であれば拡散が促進されるかもしれないが,ミサイル防衛は拡散の危険性をいっそう高める可能性もある. 31 東京フォーラムは,いかなる将来のミサイル防衛も,これらの複雑な要素に敏感であるべきだと考える.同時に,大量破壊兵器を行使する能力を持ついかなる国も,他国の持つ固有の自衛権を否定する権利を与えられていない.さらに,ミサイルを拡散した国は,ミサイル防衛に反対する資格はない.ミサイル防衛が,ある国家からの強制への対抗および同盟関係の強化に一定の役割を果たす時期があるかもしれない.同時に,ミサイル防衛の開発と将来の配備は,核の価値を漸進的に減少する政策と調和を図りつつ進めるべきである. 32 東京フォーラムは,一方的措置では核の危険を全面的に低減させることはできないことを十分に認識している.米国の一方的なミサイル防衛への取り組みは,「アメリカ要塞」を形成するとのメッセージとして受けとられ,同盟関係を弱体化しかねない.ミサイル防衛は,核不拡散・核軍縮規範に代わるものとして捉えられるべきではない.したがって,協調的脅威削減の努力は,強力に追求されるべきである.この努力に成功すれば,攻撃的ミサイルやあらゆる種類のミサイル防衛の開発・配備に向けた誘因を漸進的に減少させることができるであろう.輸出規制が強化され,あるいはミサイル発射実験や配備が抑制されれば,本土ミサイル防衛が必要だとの認識が低下することにもなるであろう. 33 北朝鮮がミサイル計画を破棄し,ミサイル輸出を中止すれば,大変好ましい影響が生じるであろう.さらに,ミサイル防衛が偶発的あるいは指令に基づかないミサイル発射への対抗を意図しているかぎりでは,ロシアの核戦力の警戒態勢の緩和,および指揮・命令の確実性を高めることが,ロシアにとって重要なだけでなく,米国においても本土ミサイル防衛の必要性を低下させることになろう. 34 協調的脅威削減努力が成功しなければ,また弾道ミサイルによって運搬される大量破壊兵器が引き続き各国の脅威であれば,その対応策としてミサイル防衛を除外することはできない.もしこのような状況でミサイル防衛が配備されるのであれば,その配備は,核の危険性を削減するための他のイニシアティブとともに,きわめて慎重に行われなければならない.もし懸念の原因が緩和ないし除去された場合は,防御的配備の規模を縮小,あるいは全廃しうる可能性を残しておくのが賢明であろう. 検 証 35 核軍縮が効果的に進むためには,すべての核兵器の生産から廃棄に至るプロセスの監視と透明性が確保される必要がある.米ロの核弾頭の削減は重要な進展をみせているが,これが後戻りしないために不可欠な透明性を確保するうえで必要な施策がいまだにとられていない.東京フォーラムは核兵器能力を有するすべての国が核監視措置,透明性確保,信頼醸成措置を受け入れることを求める.他国の軍備規制違反が探知されず,自国の安全保障が危機にさらされていると考える国は,核兵器の大幅削減に同意しないであろう.核廃絶の最終段階においては,なおさらそうであろう. 36 核兵器計画は多くの点で高度な機密を含んでいるため,核軍備の規模や廃棄に関する宣言の検証は困難である.検証を効果的に行うためには,兵器用に製造された核物質の総量についての不確実性に加えて,この機密性に配慮せねばならない.したがって,安全保障上の懸念,秘密性,不確実性は,核兵器削減・軍縮の検証の精度の高さが最重要課題であることを意味する. 37 一点に絞った,あるいは狭い範囲に焦点を当てた検証システムだけでは十分ではない.違反行為の発生について早期に警告を発し,欺瞞行為を探知するには,包括的な検証システムが必要である.もっとも効果的な検証システムはさまざまな技術の組み合わせであり,国際機関の役割,国家の技術的手段,透明性や信頼醸成措置を統合して相乗効果を生み出すものであり,弾頭,運搬手段から核分裂性物質までを対象とする. 38 探知・査察技術の開発により検証システムを改善する一方で,政治的要因が厳格な検証を脅かし,弱めようとしている.これはUNSCOMおよび化学兵器禁止機関(OPCW)との関連で明らかである.米国や他のCWC加盟国による国内の実施取り決めのなかにはCWCの実施規定を弱めるものがあり,これは将来の世界的な軍縮合意にとって懸念材料である.CWCとBWCの検証強化はすべての大量破壊兵器廃絶に向けた世界的な努力のために不可欠である.欺瞞行為を探り,核の危険の漸進的な低減と廃絶を可能にするために,監視と政治的な意志が相携えていく必要がある.この二つは,政府と国際機関の協力も含む一貫した方法で適用される必要がある. 39 米ロ間の核兵器削減あるいは制限条約とその検証システムは,将来の核軍縮の検証に関する価値ある教訓を含んでいる.それによれば配備された大量の核兵器を信頼できる方法で検証することが可能であるが,そのために政治的・技術的な努力と資源が必要である.ただしこれらの検証措置は,核弾頭より運搬手段に焦点を当てたものであった. 40 配備された核兵器の検証・監視措置は核弾頭の管理にまで及ばねばならない.核兵器は軍事的,政治的にきわめて機微なものであり,核弾頭の貯蔵数の数量管理は政府が綿密に行っていると考えるのが自然であろう.したがって,政府がすべての核弾頭の所在地や状況を公表するのを妨げる技術的障害はないはずである.同様にこのような公表内容の検証に当たって問題となる技術的障壁もない.唯一の基本的な問題は政治的なものである. 41 査察規定は,あらゆる軍備管理・軍縮合意の検証上重要である.軍縮条約の遵守は,条約を調印した政治的意思にかかっている.しかし,信頼関係のみでは十分ではない.主要軍縮協定はすべて,厳格で信頼性の高い検証体制を含んでいる.米ロ間の核関連条約は,現地査察の多用を柱とした2国間体制の下で検証が行われてきた.査察規定は,CWCの信頼性にとって不可欠であり,BWCを強化するための検証議定書交渉でも主な関心事となっている.各国政府は抜き打ち査察や短期通告査察を含む査察を許容しなければならない. 42 検証・監視システムの質と能力は,探知・監視技術のたゆまぬ改善により,これまで想像できなかった高水準に達する可能性がある.近代技術により,不審な建設計画,銀行取引,輸出入の形態,輸送,生産などの核兵器計画の疑いの兆候について,以前と比べ格段とよく知ることができるようになった.大気,土壌,水質の採取技術も高度化され,重要な情報を獲得できるようになった.政府のものであれ民間のものであれ,衛星写真は核兵器開発計画の秘匿をますます困難なものにしている.コンピューターによるデータ処理は,公表内容やその他の検証プロセスで入手するデータ分析を改善しうる.これらの技術のすべてが,核軍縮を検証するために用いられるべきである. 43 各国独自の技術手段も,核削減・核軍縮の検証にとって不可欠なものである.しかし,各国独自の技術手段は,その性格上,有用性に限界があり,とりわけ多国間で用いる場合に顕著である.欺瞞行為をなるべく多く探知する機会を得るため,監視用機材が,政府および国際機関の努力を統合する方法で,使われるべきである.IAEAやCTBT暫定技術事務局(CTBTO)などの国際機関,各国独自の技術手段,各国による透明性向上・信頼醸成措置を統合し,これらの相乗効果を引きだす取り組みが必要である.検証のために相乗効果をもたらす取り組みの対象を拡大するため,それにふさわしい国際機関を形成していかなければならない. 44 核条約不履行の抑止のためには,違反国は捕捉されるのみならず,違反が発生すれば重大な結果に直面するということが,すべての国に周知されなければならない.国際社会は広範なコンセンサスに基づき,違反国への対応について,国連憲章第7章の適用の可能性を含め,一致し決然とした態度をとらなければならない.効果的な条約遵守に対する国際社会の支持を構築し,維持するためには,安保理の改革と権威の向上により,強化し再活性化された国連が不可欠である.東京フォーラムは,核不拡散と核軍縮を求めるすべての国に対して,このような改革の進展を積極的に支持するよう求める.
第5部 主 要 提 言
冷戦終結後10年間が経過し,21世紀を目前に控えた今,国際的安全保障の枠組みは崩壊しつつあり,核の危険が憂慮すべき勢いで増大している.主要国間の関係は悪化している.国際連合は政治的,財政的危機のなかにある.核兵器その他の大量破壊兵器拡散防止のための国際体制も窮地に陥っている.テロ行為はますます懸念される方向に向かいつつあり,大量破壊兵器で武装したテロリストが現れる可能性もある.インド・パキスタンによる核実験は,核兵器の有用性が低下しつつあるという見方にすべての国が同意しているわけではないことを示した.これまでの数年間にわたる不断の努力にもかかわらず,大量破壊兵器の拡散を頑強に追求する国による秘密裏の大量破壊兵器計画は根絶されていない.米ロ間の核軍縮プロセスは停滞し,これが世界的な軍縮のアジェンダに悪影響を及ぼしている.アジアの状況はとくに流動的であり,今後数年間に核軍縮および核不拡散に好ましくない変化が生じる恐れがある. 東京フォーラムは,その招集者であり,核不拡散・核軍縮の努力を継続する日本政府のイニシアティブを賞賛する.われわれは,核不拡散・核軍縮において,日本政府が積極的な役割を今後とも果たし続けることを希望し期待していることを表明する.
1 NPTの中核的合意を再び誓約することにより,NPT体制の弱体化を阻止し,修復せよ. 2 段階的削減を通じて核兵器を廃絶せよ. 3 核実験禁止条約の発効を実現せよ. 4 STARTプロセスを再活性化させ,核兵器削減の対象を拡大せよ. 5 核についての透明性を高める措置を採用せよ. 6 すべての核兵器について即時警戒態勢を解除せよ. 7 核分裂性物質を,とくにロシアにおいて管理せよ. 8 テロと大量破壊兵器に注意せよ. 9 ミサイル拡散に対する措置を強化せよ. 10 ミサイル防衛の配備は慎重にせよ. 11 南アジアにおける拡散を阻止し,巻き返しをせよ. 12 中東における大量破壊兵器を廃絶せよ. 13 朝鮮半島における核とミサイルの危険を根絶せよ. 14 拡散の支持につながる拒否権の行使は自粛せよ. 15 軍縮会議を再活性化せよ. 16 軍縮の検証措置を強化せよ. 17 核不拡散・核軍縮の違反に対して効果的な制裁メカニズムを構築せよ. |